4月の大統領選で右翼候補のルペン氏を破り、フランスのマクロン大統領が再選を決めた。2017年の前回選挙と比べると両氏の得票率の差は大きく縮まった。棄権と白票・無効票も目立つ結果になった。AERA 2022年5月16日号は大統領選を振り返る。
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「多くの同胞が私に投票したのは、私の考えを支持するためでなく、『極右』の考えを阻むためだったことは、よくわかっています」
再選をはたしたフランスのエマニュエル・マクロン大統領の演説に高揚感はなかった。
4月24日の決選投票で右翼候補のマリーヌ・ルペン氏を破ったとはいえ、排他的な考え方のライバルに圧勝できたわけではない。得票率は58.55%。同じ顔ぶれの決選だった5年前と比べ、差は32.2ポイントから17.1ポイントに縮まった。
「『極右』の主張に票を投じさせた怒りや不満にも応えなければならない。私はすべての人の大統領になる」
マクロン氏の宣言は、分断を克服し国民の統合を修復するという決意声明。だが、彼の決意を国民はどれほど信頼し期待するだろうか。5年前の初当選直後にもほとんど同じ演説をしていた。つまり1期目の5年間で彼は分断の克服に失敗した。勝利宣言は敗北宣言に聞こえた。
“善と悪”では見えない
民主主義と非民主主義の対決。
この決選について、フランス政界や言論界の多くの人が示した基本的な構図である。その側面は確かにある。だが、善悪の戦いのように見ると、なぜこれほど“悪”が支持を得るのかわからない。
そもそも極右、右派、中道、左派、極左というふうに政治勢力を一直線上に並べ、その両端を「非民主的」という構図で理解するだけでは無理がある。そこで政治的な対立軸を座標の縦軸と横軸にして、今回の大統領選の主要候補がどこに位置するか考えてみよう。
縦軸は経済のグローバル化に積極的か消極的かを表す。グローバル化積極派は、欧州連合(EU)もポジティブにとらえる。経済的に強い社会を作ることを優先し、市場経済のメカニズムを問題解決の有力な手段と見る。競争社会は豊かな社会につながると信じるエリート層や富裕層に支持される。
仲間はフランス人だけ
逆に下の方は、グローバル化やEU統合に慎重あるいは否定的で、国という共同体が守ってきたはずの生活を外から誰かが壊しにくると主張する候補の立ち位置だ。破壊者として、グローバル企業や移民、EUなどをやり玉にあげる。失業や貧困に苦しむ立場の弱い人たちは、競争社会とは逆のいわば仲良し社会の可能性をそこに感じる。