ikura/2000年生まれ、東京都出身。ボーカル(撮影/写真映像部・東川哲也)
ikura/2000年生まれ、東京都出身。ボーカル(撮影/写真映像部・東川哲也)

“小説を音楽にするユニット”YOASOBIが、4人の直木賞作家とコラボレーション。「はじめて」をテーマに書いた小説を、楽曲化する斬新なプロジェクトが進行中だ。そんな3人の人生に大きな影響を与えた本とは。AERA 2022年5月2-9日合併号から。

【ikuraさんが選ぶおすすめの3冊はこちら】

*  *  *

——奇しくも不思議な縁があった三人に、それぞれにとって新しい世界を開いてくれた印象深い本を3冊ずつ選んでもらった。

森:『夜間飛行』はもう4、5回読んでいて、大好きなせりふがあります。「人生には解決法なんかないのだよ。人生にあるのは、前進中の力だけなんだ。その力を造り出さなければいけない。それさえあれば解決法なんか、ひとりでに見つかるのだ」。このページを、人生に行き詰まる度にめくってきました。実際、前進さえしていれば、何もかも解決していくという実感があります。時々物語の中に自分にピタッと寄り添ってくれる一言がある。そういう読書の力を感じるきっかけとなった本です。

森絵都(もり・えと)/1968年生まれ、小説家。90年、『リズム』でデビュー。著書に『カラフル』『カザアナ』など。『はじめての』では“はじめて告白したときに読む物語”、「ヒカリノタネ」を執筆した(撮影/写真映像部・東川哲也)
森絵都(もり・えと)/1968年生まれ、小説家。90年、『リズム』でデビュー。著書に『カラフル』『カザアナ』など。『はじめての』では“はじめて告白したときに読む物語”、「ヒカリノタネ」を執筆した(撮影/写真映像部・東川哲也)

『たのしいムーミン一家 復刻版』は、コミュニティーの在り方が私にとって理想に近い形で描かれています。どこまでも自由で、誰もがその人のままでいられる。ムーミンママは、古今東西の文学作品の中で最高の女性だと思っています。順応性があり冒険欲があり、家族に対して愛情はあるけれど、自分の時間を大切にしている。

『セカンドハンドの時代「赤い国」を生きた人びと』は、読んでいるとつらさを感じるノンフィクションではあるんですが、何十人もの人たちから話を聞いて、自分の解釈や意見は挟まずに、ただ寄り添うように編む。その手法に感じ入った一冊です。

AERA 2022年5月2-9日合併号より
AERA 2022年5月2-9日合併号より

ikura:『わたしたちの』は26篇からなる詩集で、中でもひたすらレモンのことだけを細かく描写している「レモンの涙」が好きです。自分が曲を作る上で、要素を増やして事柄を分散させることはできても、ひとつのことを細分化させて深みを持たせる難しさを感じていたんですが、そこに対する気づきを得られた本です。

『あんときのRADWIMPS「人生 出会い」編』は、RADWIMPSさんをデビュー前からずっと近くで見てきたA&Rの方が書いた本で、読んだ後「私はここまで音楽に人生を懸けられているんだろうか?」と悔しくなって、泣きながらこの本を薦めてくれたマネージャーさんに思ったことを全部LINEしました。自分が音楽活動をする上で、完全燃焼しきれていなかった部分や腑に落ちていなかった部分のヒントがたくさんあって、考え方がすごく変わりました。

『ふたつのしるし』は、主人公の男女が周囲との違和感を持ちながら、でも自分を大切にして生きていく。私も小中時代に、友達と考えていることが違うと思って疑心暗鬼になっていて。でも、高校生の時にこの本を読んで、自分が感じている違和感を排除するのではなく、育てていって自分の芯にしてきたことが、これで良かったなって思えたんです。森さんの『夜間飛行』のせりふみたいに、この本に出てくる言葉たちが自分の救いになりました。

次のページ