漫画編集者 鳥嶋和彦さん(撮影/伊ケ崎忍)
漫画編集者 鳥嶋和彦さん(撮影/伊ケ崎忍)

 多くの漫画の中から、その道のプロが絶賛する作品とは──。AERA 2022年5月2-9日合併号の特集「今読みたい本120冊」では、各ジャンルの専門家がおすすめの本を10冊ずつ紹介。その中から、漫画編集者・鳥嶋和彦さんが選んだ作品をお届けする。

【鳥嶋和彦さんオススメの10冊】

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 漫画に携わっている以上、話題の作品には触れて、その理由を考えるということを心がけてきました。最近、おもしろいと思ったのは『東京卍リベンジャーズ』。ダメダメな主人公が、ガールフレンドを救うためにタイムリープする話です。タイムリープの度に対峙する相手が変わり、構造が非常によく考えられていて、プロとして感心しました。

 意表をつかれたのが『賭ケグルイ』。これまでさまざまなギャンブル漫画を見てきましたが、男性主人公がほとんどでした。この作品は闘志をむき出しにした女性たちに存在感があり、それだけで見え方が全然違う。コロンブスの卵のような漫画です。

『数学ゴールデン』も、数学をテーマにした独創的な作品です。粗削りなところはありますが、新しいジャンルに切り込もうとする作家と編集者の意欲を主人公像と重ねて読んでいます。

『JJM 女子柔道部物語』は、技の駆け引きの描き方が抜群にうまい。能天気に面白くて、読んでスカッとする。漫画本来のよさがあると思います。

 僕は今年が編集者47年目で、会社人生最後の年。個人的にGWに読もうと思っているのが、リストの下5作です。『すすめ!!パイレーツ』は僕が「少年ジャンプ」で初めて面白いと思った作品。鳥山明さんの『Dr.スランプ』もこれがあったから「いける」と思った、僕の恩師です。『おれは鉄兵』は、僕の編集者としての背骨です。1話を50回読んで分析したら、漫画はコマ割りとアングルだとわかり、文法が見えてきた。

 漫画は、主人公の背中に乗って物語の中に入っていく。それが醍醐味であり、おもしろさです。その時楽しくて、元気になればいい。サウナや温泉に入るのと同じです。僕が20代の頃に感心した作品を読むと、世相から離れたまっさらな気持ちになれるし、当時の気持ちに戻れる。本棚にはそんな作品をさしておくのをお勧めします。

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