山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/1952年生まれ。霊長類学者、ゴリラ研究者。京都大学理学部卒、同大学理学博士。京都大学総長を経て、2021年から総合地球環境学研究所所長
山極壽一(やまぎわ・じゅいち)/1952年生まれ。霊長類学者、ゴリラ研究者。京都大学理学部卒、同大学理学博士。京都大学総長を経て、2021年から総合地球環境学研究所所長

 幅広い分野に興味を持てば、思わぬ発見があるかもしれない。AERA 2022年5月2-9日合併号の特集「今読みたい本120冊」では、各ジャンルの専門家がおすすめの本を10冊ずつ紹介。その中から、人類学者・山極壽一さんが選んだ「科学」分野の本をお届けする。

【山極壽一さんおすすめの本はこちら】

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 いま、世界で何が起こっているのか。気候危機や戦争など、それぞれの現象ではなく、それがなぜ起こっているのか、我々がどうすべきかといった本質を掘り下げる本を選びました。

『サピエンス全史』と『レジリエンス人類史』は、ともに人類史を描いてはいますが、違う視点から見通した二冊。両方読むと面白いと思います。

『サピエンス全史』は、認知革命、農業革命、科学革命の三つの革命があったから人類は発展したと説きます。ただし、これは西洋史的な視点です。現代のグローバリズムは西洋社会に偏っており、見方を変えれば西洋社会が築いたシステムが戦争や環境問題といった地球危機を招いたとみることができる。であれば、西洋とは違う発想も必要でしょう。

『レジリエンス人類史』は、アジアと新大陸、特に中南米の文明史に焦点を当てています。ユーラシアでは農耕と家畜化が同時に始まり、大型家畜と共に繁栄があり、軍馬を用いて戦争に明け暮れ、果ては奴隷制度を作った。一方、中南米も、アジア辺境にある日本も、家畜は飼ったが肉や乳は使わなかった。家畜を奴隷のように扱わなかったから、例えば日本では、戦争のない大和時代、平安時代があったのかもしれません。こうした視点の中に戦争を避ける意味でも、西洋の歴史観では考えもつかない“レジリエンス”、つまり処方箋があるとわかります。

 ロシアのウクライナ侵攻のニュースに触れると、戦争はこの時代でも不可避なのかという絶望を抱くかもしれませんが、『共感の時代へ』を読むと別の視点も見えてきます。この本では、人間が共感する力を持っていることに注目し、人類の祖先はチンパンジーの祖先と同じく、共感力を社会の根本に据えていたと論じています。

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