『幸村を討て』
(2200円〈税込み〉/中央公論新社)
戦国時代最後の戦い、「大坂の陣」を舞台に、真田一族、徳川家康、毛利勝永ら戦国武将たち、それぞれの思惑を描く。登場人物たちの躍動感あふれる会話や動きから、武将たちの人物像や時代の空気が立ち上がる。「大きな流れは事前に決めるが、プロットは書かない」と今村さん。「セリフは、出たとこ勝負。瞬時の判断の連続のため、僕にとってはまるで戦です」(photo 写真映像部・戸嶋日菜乃)
『幸村を討て』 (2200円〈税込み〉/中央公論新社) 戦国時代最後の戦い、「大坂の陣」を舞台に、真田一族、徳川家康、毛利勝永ら戦国武将たち、それぞれの思惑を描く。登場人物たちの躍動感あふれる会話や動きから、武将たちの人物像や時代の空気が立ち上がる。「大きな流れは事前に決めるが、プロットは書かない」と今村さん。「セリフは、出たとこ勝負。瞬時の判断の連続のため、僕にとってはまるで戦です」(photo 写真映像部・戸嶋日菜乃)

 今村さん自身、執筆中はこれまでにないほど泣いた。信之に対し、「こんなにも思考回路が似ている人物はいない」と感じたからだ。長男で、三つ下に弟がいる。作家デビューするまで、ダンススクールを経営する父のもとでインストラクターとして働いた。父は経営者、自分は跡取り。生徒たちが不思議と“父派”と“翔吾派”に分かれていくようなこともあった。

「対立しているわけではないけれど、家風が変わってくる、ということがあるんです」

「これを言ったら父は機嫌を損ねるだろう」と、本音をのみ込む信之には、自身を重ねた。インストラクターとして、生徒たちと接し、それぞれの“家族のドラマ”を目の当たりにしてきた。誰も悪者がいないのに、家族全員が苦しむケースも目にしてきた。

「家族だからこそ、分かり合えることもあるけれど、家族だからこそ衝突することもある。それでも切りたくても簡単には切れないのが、家族。読み手誰しもに当てはまる部分があると思う」

 歴史小説を書き始めたのは、2015年。その後、歴史小説家になる長年の夢を叶えたが、『じんかん』(20年)を執筆していた頃、読者の期待が大きくなっていくのを肌で感じ、恐れを抱くようになった。そんな自分を支えたのは、「教え子たちに、夢に向かっていく姿を見せ続けたい」という強い気持ちだ。

「人生は一変した。けれど、自分は何も変わっていない」

 まだまだダメだな、と思う。同時に、まだまだうまくなれる、と思う自分がいる。(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2022年4月25日号