大和ハウス工業/玄関に「自分専用カタヅケロッカー」があれば靴が散らからない。コートやバッグも収納できる
大和ハウス工業/玄関に「自分専用カタヅケロッカー」があれば靴が散らからない。コートやバッグも収納できる
冷蔵庫にペタペタ貼ってしまいがちなプリントやチラシはまとめて「お便り紙蔵庫」へ(写真:大和ハウス工業提供)
冷蔵庫にペタペタ貼ってしまいがちなプリントやチラシはまとめて「お便り紙蔵庫」へ(写真:大和ハウス工業提供)

 人事サポート室でD&Iを担当する中村万里子さんは「岩田さんが耳の不自由な社員と共同で、より便利な機能を追求したことが『toruno』のリリースにもつながりました。職場のダイバーシティーが進めば進むほど、それがイノベーションの源泉になる好例といえます」と話す。

 男性の多い職場であえて女性中心のチームを立ち上げたことが、ヒット商品につながった例もある。大和ハウス工業が販売している「家事シェアハウス」だ。

「家事」といえば、「料理」や「洗濯」「掃除」などが浮かぶ。しかし、実際には「脱ぎっぱなしの服を片付ける」「不要なチラシを捨てる」「玄関の散らかった靴を片付ける」といったこれまでは家事と認識されていなかった細かな作業が無限に存在している。

 こうした作業を「名もなき家事」と名付け、家族全員で無理なく家事をシェアできる工夫やアイテムを盛り込んだのが「家事シェアハウス」だ。

■固定観念覆した勝因は、共働き県・富山の女性

 最初に「名もなき家事」に着目したのは富山支店の女性社員たちだ。支店長から「女性の家事負担を減らす住宅」の提案を求められたチームは、「女性の家事を減らす」という発想に疑問を感じ、「家族で家事をシェアする」視点に切り替えて、企画を練り上げていった。

 住宅事業本部の多田綾子上席主任は「当社でもこれまで家事の負担を軽くする様々な提案をしてきましたが、『女性が家事を担う』という固定観念から抜け出せないでいました」と振り返る。その上で、富山チームの「勝因」について、こう話す。

「富山は全国有数の共働き世帯が多い地域です。家事分担が根付いた土地であるにもかかわらず、『負担が減らないのはなぜか』と普段から考えていた女性メンバーたちが、自分たちの経験に基づいてアイデアを出し合ったことが、成果につながったのだと思います」

 玄関には自分専用片付けロッカーを設置。リビングに入る前に手洗いや着替えができるスペースを配置するなど、動線も含め様々なアイデアを駆使した分譲住宅を15年に富山県内で販売したところ、来場者数が約2割もアップした。

 16年に中部・北信越、17年には全国に販売エリアを拡大。全国約100カ所で実施する分譲住宅の見学会には、コロナ禍前のピークで通常の倍近い4800人が訪れた。

 昨年開発した同社初となる全戸「家事シェアハウス」の戸建て分譲住宅地「家事シェアタウン」は既に完売している。

 同社は「女性社員の活躍推進」をダイバーシティー推進の試金石と位置づけてきた。それには業界ならではの事情もある。15年の総務省調査で産業別就業者の女性比率が「建設業」は15.9%と低迷している。そんな中、同社は女性社員の比率を20.8%、女性管理職の比率も4.5%まで引き上げを図ってきた。

 経営管理本部でD&Iを担当する長谷川満子グループ長は「女性活躍推進は、女性が参加すればよいというのではなく、プロセスやアウトプットが変わることに意義がある、と思っています。D&Iの推進がビジネス上の利益につながったという点からみても、今回は成功事例と考えています」と、総括、評価している。

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