同社の月刊文芸誌「新潮」の校閲を統括する高崎祐一さん(61)は、前職の新聞社時代と合わせて校閲歴約40年の大ベテランだ。新潮社に入ってからは、「週刊新潮」を経て文芸の校閲を中心に担当してきた。

「作家の方ももちろん完璧を期して書かれているけれど、どうしても事実関係の誤りや矛盾が出てきてしまう。それを見つけて疑問として指摘し、確認してもらうことが私たちの仕事です。自分なりに、出版文化に少しは貢献できていると感じられるところがやりがいですね」

 2011年には、高崎さんが校閲した『苦役列車』(西村賢太)と『きことわ』(朝吹真理子)がそろって芥川賞に輝いた。校閲者人生で最もうれしかった瞬間だと振り返る。

十人十色で正解はなし

 一方で、40年のキャリアを積んでも「道半ば」だという。

「昔は『誤植のほうから俺の目に飛び込んでくるんだ』と豪語していたこともあったけれど、それは大いなる勘違いで、申し開きのできない誤字を見逃してしまうことがあります。また、文芸は同じ単語に別の漢字が使われていてもそれが作家さんの意図だったりする。十人十色で、正解がありません。40年経っても、校閲者として完成していないと思っています」

 それでも、「新潮」編集長の矢野優(ゆたか)さんは言う。

「新潮社の出版物は、これまでも編集者と校閲者が分業しながら内容を研ぎ澄ませてきました。新潮社の出版部に原稿を預けてくださるということは新潮社の編集と校閲に預けてくれているということですし、作家さんからも新潮社の校閲だから任せられるという声も聞きます」

 その信頼を担保しているのが膨大な作業量だ。

「校閲者がチェックして編集部に戻ってくるゲラを見ても驚きますが、彼らが作業中のゲラを見ると、すさまじい量のファクトチェックが行われています。調べ倒して、間違いないものをどんどん消していく。鳥肌が立つほどの量です」(矢野さん)

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