MY TREEペアレンツ・プログラムで、自分を語るセッションの様子。母親と父親別々のプログラムがある(photo 森田さん提供)
MY TREEペアレンツ・プログラムで、自分を語るセッションの様子。母親と父親別々のプログラムがある(photo 森田さん提供)

 18歳未満の子どもへの児童虐待は増えている。全国の児童相談所に寄せられた児童虐待相談対応件数は、2020年度に初めて20万件を超え20年前の11.5倍になった。児童福祉・心理の専門職研修や政策提言などを行う「エンパワメント・センター」(大阪府高槻市)を主宰する森田ゆりさんは、「児童虐待をなくすには、親の回復が不可欠」だと話す。AERA 2022年4月18日号から。

【グラフで見る】児童相談所が対応した児童虐待件数・20年の変化

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 森田さんは2000年の児童虐待防止法の制定にも関わるなか、日本には「親の回復」という概念がないと痛感。翌01年に、虐待する親の回復を促す「MY TREEペアレンツ・プログラム」を開発し、以来20年間実践してきた。

 虐待的な言動がある保護者が対象で、週1回2時間、計13回のグループセッションと計3回の個人面接、最後の「同窓会」まで半年近くかけて行う。自分の気持ちを語り、自分の内面を深く見つめる作業をしながら、子どもとの関係を変えていく。全国の民間団体や児童相談所などが取り入れていて、これまで約1400人が修了した。

 こうした虐待の再発を防ぐプログラムは、日本でも広がりを見せている。他にも、米国発祥の怒鳴らないコミュニケーションを学ぶ「コモンセンスペアレンティング(CSP)」も知られている。ただ、日本には、親支援プログラムの受講に法的強制力はないのが現状だ。20年に施行した改正児童福祉法などには、虐待した親への医学的・心理的指導(再発防止プログラム)を児相の努力義務とすることが盛り込まれた。

 森田さんは、裁判所の命令でプログラムを受けさせる仕組みがない日本の法制度の改正が必要だと指摘する。

「子どもは虐待されたとしても、親とのつながりを求めています。子どもが家に帰るためには、親が変わるしかありません。そのためにも、回復プログラムが虐待的言動に悩む多くの親たちに届くことを願います」

虐待は家族の病理

 当時3歳と2歳の長男と次男に対し罵声を浴びせてしまい、「これ以上のことをしてしまう前に、自分がいなくならないと」と悩んでいた関西地方に住む女性(30代)は、住んでいる市の広報誌でMY TREEペアレンツ・プログラムを見つけ、すがる思いで申し込んだ。悩んでいる親は自分だけではないと知り、虐待するのは決して子どもが嫌いだからではないと気がついた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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