子どもの虐待をなくすには、虐待した親が回復することが不可欠だ。親の回復プログラムが徐々に広がっている
子どもの虐待をなくすには、虐待した親が回復することが不可欠だ。親の回復プログラムが徐々に広がっている

 子どもへの児童虐待が20万件を突破した。虐待死事件も後を絶たない。児童虐待をなくすには、親の回復が不可欠と専門家は指摘する。親の回復プログラムも、広がっている。AERA 2022年4月18日号から。

【グラフで見る】児童相談所が対応した児童虐待件数・20年の変化

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「もう出ていき!」「あんたたちなんて大嫌い!!」

 関西地方に住む女性(30代)は、当時3歳と2歳の長男と次男にこんな罵声を浴びせ続けた。

「2人とも、2歳くらいになると言うことを聞いてくれなくなって。『ママ嫌い』『あっち行って』などと言われると、相手は子どもやのにヒートアップして、怒りを止められへんようになったんです」

 暴言を吐いてしまうのは、過去の傷つき体験が影響しているのではないかという。子どものころ、両親がよく「あんたは気がおかしいんか」と互いに罵(ののし)りあった。優秀な兄や姉とも比べられていると感じ、自分が価値のある人間だとは思えなかった。そのためか、わが子から「嫌い」など否定的な言葉を言われると、劣等感や怒りがよみがえり、言葉がきつくなったのではないかという。

 言った後で毎回激しい自己嫌悪に陥(おちい)った。だが、「手を出している親よりマシ」という、歪んだ優越感のようなものもあった。それが昨年9月、「親として越えたらあかん一線」を越えた。

親が変わらなければ

 風呂場で次男が洗面器を取ろうと手を伸ばしたので、女性がよかれと思い手渡すと、次男は自分で洗面器を取りたかったのか、「出ていって、ママ嫌い!」と怒りをぶつけてきた。否定的な言葉を聞くのに耐え切れなくなった女性は、「言うなって言ってるやろ!」と叫ぶと、お湯が出たままのシャワーヘッドを次男の口に向けた。次男は口にお湯が入り、火がついたように泣いた。女性は風呂から出ると、子どもの命にかかわることをしてしまったと気がつき、崩れ落ちた。

「こんな親が存在してたらアカン。これ以上のことをしてしまう前に、自分がいなくならないと、と思いました」(女性)

 18歳未満の子どもへの児童虐待は増えている。全国の児童相談所に寄せられた児童虐待相談対応件数は、2020年度に初めて20万件を超え20年前の11.5倍になった。

AERA2022年4月18日号より
AERA2022年4月18日号より
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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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