入学式のイメージは異なるが、「春といえば桜」は日米共通。写真はシアトル・ワシントン大学の有名な桜(写真/筆者提供)
入学式のイメージは異なるが、「春といえば桜」は日米共通。写真はシアトル・ワシントン大学の有名な桜(写真/筆者提供)

「サクラさいたら いちねんせい ひとりでいけるかな」

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 有名な入学式ソングの歌詞を、私は長らくフィクションだと思っていました。なぜなら小学校時代を過ごした長野県では、入学式までに桜が咲くことはなかったからです。中学生になって温暖な静岡県に引っ越し、入学式に桜の花が開いているのを見たときは驚いたものでした。あの歌詞は本当のことだったんだ! と。

 とはいえ、引っ越してからも頭の中にある入学式の基本的な像は変わりませんでした。その像とは、たとえば満開の桜、ぼんやり霞がかった青空、そよそよと頬を優しく撫でる風に、ほんのり混じる花の香り、みたいなものです。長かった冬を終えてようやく過ごしやすくなってきたぽかぽか陽気は、どこか浮足立った新入生たちを包むのにぴったりの穏やかさがあると思っていた──というか、そういうものだと信じて疑いませんでした。その像が崩れるのは、アメリカへ引っ越した後です。

 ご存じの通り、アメリカの新学期は9月上旬に始まります(8月上旬の州もわずかながらあります)。日本の26倍の国土をもつアメリカ、もちろん9月上旬の気候は地域によってさまざまなのですが、新学期の像というものはアメリカ全土でだいたい共通しています。それはたとえば、色づき始めたリンゴの実、抜けるような青空、キリリと爽やかな風に、キャンドルのスパイシーな香り、みたいなものです。私の夫の出身地であるアメリカ南部沿岸部は9月でも海で泳げるくらい温暖な地域でしたが、それでも新学期といえば「爽やかな秋風」を連想するということでした。

 夏の喧騒が去り、水着やビーチサンダルにしばしの別れを告げる。と同時にパーカーとブーツを引っ張り出して、シャツの色は白から茶系にシフト。日差しはまだ強くても背筋をかすめる風は明らかに夏のそれとは異なって、ゆるんだ体がスッと引き締まる──。日本の新学期はふわっとした柔らかさに満ちていますが、アメリカの新学期にはピシッとした折り目正しさのようなものが流れていました。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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日米で吹く風はまったく異なる