プロデュースする鹿島茂さん(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
プロデュースする鹿島茂さん(撮影/写真部・戸嶋日菜乃)

■学生と街をつなげたい

 パサージュの開店には、学生も大きな役割を果たした。クラウドファンディングを実施し目標金額を上回る支援を得た。その立役者となったのは明治大学政治経済学部の4年生だった中野健太郎さん(22)だ。中野さんには「学生と神保町の街をつなげたい」強い思いがある。

 明大の文系学部は1、2年時は杉並区の和泉キャンパスで学び、3年からは神保町にほど近い駿河台キャンパスに移る。本好きの中野さんは、その時を楽しみにしていた。「ところがコロナで3年生の1年間はオンライン授業になり、大学のキャンパスに行くことはほとんどありませんでした。この10年ほど学生の神保町離れが進んでいることを耳にしていましたが、このままではますます距離が開くと思いました」(中野さん)

 中野さんは、神保町に学生のサードプレースを作りたいと考えた。21年8月、後輩の島倉雄哉さん(21)と手始めにオンラインコミュニティー「ふらっと神保町」を作る。鹿島さんの本『神田神保町書肆(しょし)街考』を読んだのをきっかけにオール・レビューズの友の会にも入会し、パサージュ開店の計画を知る。

「神保町でサロンの役割を果たしたいとするパサージュの考えは、僕たちがやりたかったことと合致しました。オープン後は、学生は参加無料の、読書術をはじめとする講演企画を行っています。本を介した出会いや発見の場作りができればと思っています」(中野さん)

 鹿島さんが書評アーカイブサイト「オール・レビューズ」を立ち上げたのは17年。本を「短期的な消費財」から本来の「ロングセラーの耐久財」に戻すのが目的だ。背景に「紙の本がなくなる危機感」がある。

「図書館で本が処分されるときは、基本的に古い順です。そのとき書評があれば、良書は生き延びられるかもしれないと考えました。パサージュはそれをさらに一歩推し進めたかたちで、こういう場があれば本は真の意味で『ロングセラーの耐久財』になりえます」(鹿島さん)

 パサージュで購入した本の裏表紙を見ると、元の所有者の蔵書票がついていた。私も蔵書票を作って、共感のバトンを継いでいきたいと思った。(編集部・石田かおる)

AERA 2022年4月11日号