第94回米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」。濱口竜介監督が描く作品の魅力を、これまでアカデミー賞を受賞した日本映画とともに振り返る。AERA2022年4月11日号の記事を紹介する。

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演出家で俳優の家福(西島秀俊)は、寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。アカデミー賞にノミネートされてから上映館が増え、全国でロングラン上映中 (c)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
演出家で俳優の家福(西島秀俊)は、寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。アカデミー賞にノミネートされてから上映館が増え、全国でロングラン上映中 (c)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

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 作品賞の投票方法が09年からノミネート10作に1位から10位まで順位をつける方式に変わったことも変化の一因だ。米ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんも言う。

「好き嫌いが分かれる作品より、みんなが『まあ、いいよね』と3位くらいに選ぶ作品が受賞する可能性が高くなった。今回、下馬評で圧倒的に優勢だった『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ではなく『コーダ あいのうた』が作品賞を受賞した理由はそこだと思います」

 惜しくも作品賞を逃した「ドライブ~」だが、国際長編映画賞受賞も大きな快挙だ。日本映画では「おくりびと」以来、13年ぶり。総合映画情報サイト「オスカーノユクエ」管理人の芳賀健さんは言う。

「もともとこの部門はその国々のドメスティックな文化が色濃く出たものが好まれやすい。『おくりびと』も日本特有の葬儀を描いた点が評価のポイントになっていた。でも『ドライブ~』はそうではなく、言葉の壁や人種の壁を越えてグローバルに開かれた物語です。これまでと真逆のアプローチなのに、ここまで評価されたことがすごい」

 芳賀さんによると、1956年度に国際長編映画賞の前身「外国語映画賞」が発足してから、21年までにノミネートされた日本映画は13本。日本映画史に詳しい映画評論家で映画監督の樋口尚文さんは話す。

「小林正樹監督の『怪談』や勅使河原宏監督の『砂の女』はオリエンタリズムや土俗性を感じさせる作品です。当時は『東洋のミステリアスな国がこんなアート作品をつくるのか!』という発見の驚きがあったのでしょう。51年度に名誉賞を受賞した黒澤明監督の『羅生門』は、いまでこそ高尚な作品と認知されているけれど、当時の日本映画界ではみんなに『ポカーン』とされた。逆に海外でその良さが発見されたようなものです」

■自然体で作品をつくる

 実はこの現象、「ドライブ~」にも当てはまるところがある。「話題になっていたので観(み)たけれど、実はよくわからなかった」という声も少なくない。樋口さんも笑ってうなずく。

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