いさやま・げん/1973年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。米国大手ベンチャーキャピタルDCMを経て、2013年WiLを
設立。共同創業者CEO(撮影/写真部・松永卓也)
いさやま・げん/1973年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。米国大手ベンチャーキャピタルDCMを経て、2013年WiLを 設立。共同創業者CEO(撮影/写真部・松永卓也)

 短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。最終回は、スタートアップ企業に出資する「WiL」の共同創業者CEO伊佐山元氏だ。AERA 2022年4月4日号の記事の2回目。

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>>1回目「なぜ日本ではユニコーンが生まれにくいのか 投資家が語る日米のベンチャー投資の違い」より続く

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──しかし既存事業を守り育ててきた人たちが経営している大企業では、新規事業が育ちにくい。芽が出る前に潰されてしまうケースも多々あります。

伊佐山:そこですよね。売り上げを半分にして利益を倍にするというのは、頭で分かっていてもなかなか実行できません。社内外のしがらみもあります。しかし実際に大企業の社長に会うと、みなさん変えたいと思っている。「会社の中でやりにくいなら、会社の外でやりませんか」というのがWiLの提案です。

石川彩子・ミツモア/
見積もりを自動化するプラットフォームサービスを運営する。写真家や庭師といった、その道のプロとの出会いを専用アプリでアシストする。中小企業や個人事業主の力をITで底上げし、日本のGDP向上を図る(撮影/写真部・松永卓也)
石川彩子・ミツモア/ 見積もりを自動化するプラットフォームサービスを運営する。写真家や庭師といった、その道のプロとの出会いを専用アプリでアシストする。中小企業や個人事業主の力をITで底上げし、日本のGDP向上を図る(撮影/写真部・松永卓也)

──WiLはソニー、パナソニック、NTTドコモ・ベンチャーズ、KDDI、ANAホールディングス、日産自動車、鹿島建設、伊藤忠商事など伝統的な大企業から資金を集めています。政府系ファンドのINCJとも組んでいる。なかには「VCらしくない」という人もいます。

伊佐山:様々な大企業と一緒にスタートアップ支援をやるなんて、うまくいくはずがないと100人中99人に言われました。大企業と一緒にやると色々な制約や政治もあり、面倒臭い。一方で、誰もやっていないからこそチャンスだとも考えました。

 日本ではスタートアップと大企業は水と油みたいに言われますが、米国では起業する人の多くが大企業での勤務経験を持っています。そこで技術やビジネスの基礎を学んでから起業するわけです。ヒト、モノ、カネのリソースが大企業に集中している日本ではなおさら、大企業のリソースを使い倒してから起業した方がうまくいくと思いました。WiLに出資している大企業はベンチャー投資お金を儲けたいわけではありません。投資を通じてベンチャー企業との接点を持ち、自分たちが変わるきっかけを掴(つか)むことが目的です。ケミストリー(相性)が合うベンチャーがあれば、買収して自分たちの本業にする手もあります。「面白い起業家を見つけるために投資してください」とお願いすると、多くの経営者が寛容な態度を見せてくれます。

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