塾に通い始めたのは小5の夏。最初は真ん中くらいのクラスで、段々と上がっていきました。塾の勉強やクラスが上がっていく感じは面白かったけれど、中学受験はつらかったです。

 小学校のクラスで受験するのはほぼ一人。放課後になると、みんなは遊んでいるのに、自分だけ塾。疎外感がありましたね。それに、塾から一緒に帰る子とは仲良かったけれど、クラスが違っていたので、授業中に話せる友達があまりいませんでした。小6の夏に原因不明のスランプに陥って、成績が下がったときもつらかったな。

 受験勉強は父とやりました。仕事で帰宅時間が遅かったので、やるのは朝6時。本当によく付き合ってくれたと思います。算数の問題を一緒に解いたり、地理を教えてもらったりしました。一緒に勉強ノートにやることリストも作っていました。

 ピアノは小4のコンクール入賞コンサートを最後に、自然と「いったんお休みしよう」という流れに。続けさせようとするのが普通だと思うのですが、うちはなかったですね(笑い)。家では息抜きや気が向いたとき、たまに弾いていました。

 開成中高時代にハマったのは「音ゲー」。画面に流れてくるリズムに合わせて音を鳴らすゲームで、太鼓やギターを模したものなどいろんな種類がありました。高校のときはロックバンドを組んで、ドラムも担当。元々リズムを扱うことが好きだったんです。

 音ゲーにはかなり没頭して、高校生で1日に約10時間やる時期もありました。3年連続で大会にも出場し、高3で全国ベスト8に! まずは地区予選を突破するために猛練習。外でひたすら練習をした後、家でもYouTubeで譜面研究。0・5倍速に落として指使いを決めて、机をたたく。ピアノと同じで指使いが大事(笑い)。

 頭の中は音ゲーとバンドでいっぱいだから、当然、勉強もしていなくて。高1までずっと成績は400人中330位、下のほうでした。でも、高2に出た音ゲーの大会で、思うような結果が出せなくて。その悔しさを勉強で昇華させようとしたところから、真面目に勉強を始めました。

 その間もピアノは頭の片隅にはあって、自分はこれまでやってきたピアノをどうするべきか問い続けていました。進路を決めるとき、藝大か東大かで迷っていたけれど、「音楽と数学、迷っているんだったら、東大にしたら?」と親の一言もあって東大に決めました。

 東大に入学した後は、数学を勉強しながら、クラシックピアノのサークルに迷わず参加しました。その頃にはYouTubeで「かてぃん」としてゲーム音楽も投稿していました。

 今では、誰もが知っているようなクラシックやポップスの人気曲をアレンジして投稿。子どももプロも楽しめるものを目指しています。その根源にあるのは、小さいころからさまざまな音楽に触れて感じてきた「音楽って楽しい!」ということを一人でも多くの人に伝えたいからです。クラシック、ジャズ、ポップス……ジャンルにとらわれなくていいのかなと。そのためには、自分自身が音楽を楽しむことが何よりも大切だと思っています。

(編集部・小林佳世)

※AERA with Kids2022年春号より

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小林佳世
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