バイリンガル子育ては、どこまでルールを徹底するかが難しい(写真/gettyimages)
バイリンガル子育ては、どこまでルールを徹底するかが難しい(写真/gettyimages)

 3歳になったばかりの息子が、足の甲を骨折してしまいました。足を打った瞬間、尋常でないほど泣き叫び、これはただ事ではないと抱きかかえてタクシーに飛び乗りました。整形外科でレントゲン撮影をして骨折していることがわかり、ギプスをしてもらって家に帰りました。それでもまだ痛むのでしょう、家でもしくしく泣いているので、母子ふたりでソファに座り、息子の好きな映画を観て気を紛らわせることにしました。

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 息子のチョイスは、ディズニーの『カーズ』。もう何十回と再生した作品ですが、映画を見せるのはいつもわたしが仕事や家事をしているときなので、ふたりで画面に向き合って鑑賞するのは初めてです。マックィーンはかっこいいね、赤いね、そうだね赤いね、とたわいもない話をしていると、膝の上の息子が、涙にぬれた瞳でわたしを見上げて言いました。「マミー、にほんごでもいいの?」と。

 わがやでは最近、「家で使う言語は英語だけ」とルールを決めたところでした。それまではアメリカ人の父親とは英語、日本人の母親とは日本語というふうになんとなく使い分けるようにしていたのですが、幼稚園や保育園でどっぷり日本語の世界に浸かっている子どもたちにとっては日本語を使うほうがラクで、父親との会話にもどんどん日本語が入り込んでいました。夫は子どもの言うことがわからないし、このままでは英語力が弱まってしまうと夫婦そろって危機感を覚え、「家では英語だけ」と方針変更したのです。子どもたちがわたしに日本語で話しかけても、 I don’t speak Japanese at home(わたしは家では日本語使いません) と英語で返事していました。

 6歳の娘は、アメリカ生活が長かったこともあり(なにしろ人生の約5分の6はアメリカ生活)英語でも問題なくコミュニケーションできます。でも3歳になりたての息子は違いました。日本語でさえおぼつかないのに英語でやり取りしなければならないことがストレスのようで、「えいごイヤ、にほんごがいい!」としかめっ面をすることもしばしば。それでも根気よく英語で話しかけ、なんとか聞き取りはできるようになっていました。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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