キエフの駅で赤ちゃんを連れて避難しようとする女性。戦闘では小さな子どもたちも犠牲になっている/2月28日(写真:gettyimages)
キエフの駅で赤ちゃんを連れて避難しようとする女性。戦闘では小さな子どもたちも犠牲になっている/2月28日(写真:gettyimages)

 世界を震撼させたロシアによるウクライナ侵攻。ネットを通じて現地の状況がリアルタイムに伝わってくる一方で、誤った情報が拡散されている。ネット時代の報道の役割とは何か。AERA 2022年3月14日号で、ジャーナリスト・古田大輔さんが綴る。

【時系列にわかる「ウクライナを巡る動き」】

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 路上に横たわる焼け焦げた遺体、ミサイルで破壊された家々、お互いを庇(かば)うように身を寄せ合う家族……。ウクライナから届くこれらの映像は、プロのジャーナリストが撮影したものではない。現地の人々がスマートフォンで撮影し、ソーシャルメディアにアップしたものだ。

 人々が自ら撮影した映像だけではない。はるか空の上からの衛星画像がロシア軍の動きを連日つぶさに伝えている。地上からも空からも、これだけ現地の状況がリアルタイムに伝わる戦争は、歴史上初めてだ。今回、当初はロシアに対する強い制裁に及び腰だった国々がその態度を変え、ロシア包囲網を強めている背景には、現地から届く情報によって世界に広がる反戦デモの影響がある。

 インターネットとスマートフォンとソーシャルメディアによって、権力者やマスメディアによる情報の独占が終わり、「情報の民主化」が起こった。人々はいつでも、どこでも、誰でも情報を発信・受信・拡散できる。ウクライナの人々の悲劇、怒り、悲しみの発信を受け取り、共感し、拡散することで国際的な世論のうねりが生まれる。

AERA 2022年3月14日号より
AERA 2022年3月14日号より

 一方で、拡散される情報の中には内容が誤っていたり、ミスリードだったり、最初から相手を騙そうと操作された情報もある。ミスインフォメーション(誤情報)やディスインフォメーション(偽情報)などと呼ばれる。

 今回の侵攻では「ウクライナ工作員による攻撃」「ウクライナ軍のロシア国境への侵攻」などという動画が拡散したが、いずれも事実と異なるものだった。ツイッターで拡散した「ウクライナに降下するロシアのパラシュート部隊」という動画は2016年撮影で今回の侵攻とは無関係のものだったし、同様にリビアやベイルートなど他地域での爆発などの映像が「ウクライナの現状」として広まった。

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