小児がんを支援するイベント「レモネードスタンド」/江利川さんの友人提供
小児がんを支援するイベント「レモネードスタンド」/江利川さんの友人提供

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害を持つ子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出会った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

■切れ目のない支援

 医療や福祉の世界では、「切れ目のない支援」という言葉をよく聞きます。その中でも、最近特に注目されているのが、AYA世代(Adolescents and Young Adults=思春期と若年成人)と呼ばれる患者さんの、小児科から成人科への移行です。医療の進歩により、障害や重い持病があっても、小児から思春期を経て大人になるケースが増えました。けれども、慣れ親しんだ小児科から成人科への橋渡しは、スムーズに進まないこともあるようです。

 今回は医療の移行期についてです。先月半ば(2022年2月)、厚生労働省の児童部会が小児の慢性特定疾病について、症状が出る前の治療も助成対象とする改定案を可決しました。(※厚生労働省ホームページ「第50回社会保障審議会児童部会小児慢性特定疾病患児への支援の在り方に関する専門委員会」より)

 この制度は、慢性的な特定疾病を持つ20歳未満の患者さんが、指定医療機関を受診すると医療費助成が受けられるというものです。これまでは症状がなければ対象にはなりませんでしたが、一部の医薬品で発症前から使用すると治療効果が期待できるとわかり、今回の改正に至ったようです。

■医療費は大きな負担

 小児がんなどの特定疾病は治療期間が長く、助成がなければ医療費は大きな負担となります。この決定により、救われるご家族は多いのではないでしょうか。ただし、この制度を利用できるのは20歳未満です。もしも治療中に助成期限が来てしまうと、一般的には月額1万円前後だった医療費が、翌月から一気に数倍になってしまうのです。

 友人のみーちゃんの娘さんも、小さな頃から小児がんと闘ってきました。みーちゃんと知り合ったころに中学生だった娘さんは、今は立派な大学生です。みーちゃんは患者会の代表であり、さまざまな発信をしたり、小児がんの当事者が参加できるイベントを企画したりしています。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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