元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 年始からパソコンの電源が入らなくなると同時にスマホも壊れかけたという稲垣さん。前回に続き、スマホの買い替えに奮闘した日の出来事をお届けします。

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 壊れかけたスマホを買い替えるだけのコトが、届いた品の電源が入らず、苦難の末やっと替えの品を送ってもらって一件落着と思ったら今度は機種変更手続きがどうやっても途中でストップ。結局、最初の品が届いてからほぼ1週間、このことにかかりっきりになってしまった。

 いやはやこの間に費やした時間とエネルギーといったら! バカなりにうまくいかぬ原因を調べトライしては挫折し、やっぱり自分がバカなだけかもという疑惑から行きつけのカフェで店主や知人に相談しまくり、結局問い合わせるしかないってことになって、だが電話は「ただいま混み合って」攻撃を繰り出すのみ。やっと1時間後に人間に繋(つな)がったと思ったらアレコレ聞かれた揚げ句「こちらでは受け付けられません」。ナナナンデと聞くも「申し訳ありません」の一点張りで新たな代表番号的なヤツを告げられ、再びの「混み合ってます」攻撃に1時間耐える気力は残っておらず、チャットに切り替えるがこれも正しい相手にたどり着くまで一苦労、ようやくコレだと思ったらAIがサクサクとトンチンカンな回答を繰り出してきて……。

 もう自分との戦いです。何度もくじけそうになり、その度に再びカフェで愚痴りまくって「ひどい!」「わかる!」と言ってもらってどうにかヨロヨロと立ち上がった。傷だらけになりながらようやくゴールにたどり着いたときは夢かと思ったよ。「やった!」と達成感いっぱいに。だが考えてみりゃ壊れたスマホを買い替えただけ。何も達成なんぞしとりゃせん。

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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