オフィスが入るビルの横には隅田川が流れ、東京スカイツリーを望める(撮影/写真部・松永卓也)
オフィスが入るビルの横には隅田川が流れ、東京スカイツリーを望める(撮影/写真部・松永卓也)

■村人になれたと実感

 3月の納期を守るのはもちろんだが、2月に控えたデモ・デーに間に合わせたい。日本でプログラミングに専念していた山下は近所のニトリに布団を買いに走った。東京・水天宮前のマンションに泊まり込み、朝まで作業して仮眠。目が覚めたらすぐ再開という数カ月を送った。そして、コードが書ける人がいなくてもテストを自動化できるツールを作り上げた。

 デモ・デーでは、近澤が4分間のピッチ(プレゼンテーション)で、このツールを紹介すると、複数の米国投資家からミーティングのリクエストがきた。

「日本で起業していたら、あの段階では米国の投資家に相手にしてもらえなかった。シリコンバレーの村人になれたと思いました」と近澤は振り返る。

 7月には日米の投資ファンドから250万ドル(約2億9千万円)の調達に成功。21年10月にはWiL、米アンコラレイテッド・ベンチャーズなどから1千万ドル(約11億5千万円)を調達した。アンコラレイテッドの創業者で、フォーブスの「最も成果を上げたベンチャー投資家100」に毎年顔を出すサリル・デシュパンデは言う。

「オーティファイは世界中の企業が長年、頭を悩ませてきたテストの自動化問題に解決策をもたらした。このチームとともに働けることを誇りに思う」

 オーティファイの社内公用語は設立時から英語。米国での事業は現地で採用した6人に任せている。近澤は毎日、日本時間の朝5時半からオンラインで現地スタッフとのミーティングを始める。目指すのは米国のハイテクベンチャーがひしめくNASDAQ(ナスダック)への株式上場だ。(敬称略)(文/ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2022年3月7日号より抜粋