姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史
姜尚中(カン・サンジュン)/東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史

 政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。

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 ついにロシアのプーチン大統領がウクライナへの軍事作戦を決行しました。米欧各国は「(公開情報を分析する)オープンソース・インテリジェンス」の手法により、軍事侵攻を予測していました。ロシアはその予測に沿った行動を取った段階で、情報戦に負けたということの証左になります。「ウクライナ政権によって虐げられた人々の保護が目的」という名目ではあるにしても、それにやすやすとプーチン大統領が乗った、ということになります。

 今回の軍事行動は、深刻な持久戦になる可能性があります。今の段階でこそ、NATO(北大西洋条約機構)は一つにまとまっていますが、持久戦になれば足並みは乱れるでしょう。そうなったときに喜ぶのはどこか。それは間違いなく中国です。

 湾岸戦争後、泥沼のような地域紛争の中であえぎ続けてきた米国をよそに、中国は着々と近代化政策を遂げました。つまり冷戦崩壊以降、最大の勝者は中国だったわけです。それに気づいた米国は、中央アジアから中近東の店じまいをしたのです。

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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