「オランダ軒」店主の山本靖さん。ハンバーガー店での経験を存分に詰め込んだラーメンを提供している(筆者撮影)
「オランダ軒」店主の山本靖さん。ハンバーガー店での経験を存分に詰め込んだラーメンを提供している(筆者撮影)

 その後、埼玉に帰り、今度は知人の紹介でハンバーガーの有名店で働くことになった。36歳の頃だった。牛肉を塊で仕入れ、店で解体して成形し、パテはすべて直前に仕込むなど、こだわりの強い店。この頃の経験が今に生きているという。

「ハンバーガーを作っていて、『食べ物はバランスが命である』ということを知りました。ハンバーガーは上から下までを一口で食べた時の味、食感などのバランスがとにかく大事です。肉だけがうまくてもダメなんですね」(山本さん)

 ハンバーガー店での経験を生かし、再びラーメンの世界に。知人の紹介で、春日部のラーメン店の立ち上げに参画し、2016年4月オープンの新店「オランダ亭」の店長となる。

 新潟で働いていたラーメン店の見よう見まねで作った生姜醤油ラーメンを提供したが、これが驚くほどの大反響。開店1週目には1日20食ペースだったが、すぐに3倍の60食ペースになり、口コミがどんどん広がっていった。その年には業界最高権威ともいわれる「TRYラーメン大賞」の新人大賞総合4位・醤油部門2位に選ばれ、一躍大人気店となる。

「オランダ軒」店内(筆者撮影)
「オランダ軒」店内(筆者撮影)

「今でこそお店は増えましたが、当時は生姜醤油ラーメンをやっているお店自体が珍しかったので、ラーメン店主やラーメンフリークの口コミがすごかったです。経験のないままいきなりオープンしてしまったので、毎日の味のブレは半端じゃなかったですが、それでもたくさんのファンがついてくれました。パンチのある味だったというのが大きいのではないでしょうか」(山本さん)

 評価もされ、これからという時期に山本さんは独立し、自分ひとりで店を作ることを決意。こうして16年11月「オランダ軒」として、地元・岩槻で店をオープンした。新潟の生姜醤油ラーメンをベースに、都心でも勝負できるパンチの効いた味わいに仕上げ、ハンバーガー店で培った肉の技術でチャーシューも大人気の店になった。

「『ヒグマ』をはじめ新潟のお店もそうですが、肉のうまみを移した醤油ダレがラーメンの味の芯を決めています。スープを炊く時には大量の生姜を寸胴の中に入れています。丼の中には生姜の姿は見えないのにこんなに生姜の味がする一杯はなかなかないと思いますよ」(山本さん)

チャーシューは注文後に切るのがこだわり(筆者撮影)
チャーシューは注文後に切るのがこだわり(筆者撮影)

 仕込みと調理はほとんど山本さん一人で行っている。自分でやらないと味が変わってしまうからだ。すべてを感覚で作っているので、レシピ化できないのだという。労働時間としても限界のところにきているが、中途半端を許すことなく、毎日1杯1杯を丁寧に仕上げている。

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天才の裏側に努力あり