虐待サバイバーの羽馬千恵さん(38)。信頼できる精神科医と出会い、今は働くことができ症状も落ち着いているという。「SOSを出し続けて」photo 本人提供(羽馬さん)
虐待サバイバーの羽馬千恵さん(38)。信頼できる精神科医と出会い、今は働くことができ症状も落ち着いているという。「SOSを出し続けて」photo 本人提供(羽馬さん)

 東京都大田区の自宅アパートに幼いわが子を9日間放置して衰弱死させた事件で、母親である被告に8年の実刑判決が出た。事件の背景には「虐待の連鎖」があるとも指摘された。虐待の連鎖を断ち切るには何が必要なのか。虐待サバイバーの女性と専門家の意見から考える。AERA 2022年2月21日号から。

【この記事の写真の続き】子ども時代の親からの虐待の傷は、大人になっても深く残る

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 負の連鎖を断ち切るにはどうすればいいか。

 親から虐待された子どもの里親などをしている青少年養育支援センター「陽氣会」(名古屋市)代表の杉江健二さんは、まず子どもが生まれて成人するまで、かかりつけ保健師や母子保健相談員などが子育ての相談に乗る「切れ目のない支援」が必要と話す。

「あと一つ、子育ての仕方を学べる仕組みを制度化して親に教えることです。いま親は乳の飲ませ方やおむつの替え方は教わりますが、子どもとのコミュニケーションの仕方はきちんと学んでいません。子どもが夜泣きをしたり、イヤイヤ期を迎えたりした時、親はどう子どもに向きあうのか、親に虐待させない仕組みづくりが必要です」(杉江さん)

 親からの壮絶な虐待を生き抜いた「虐待サバイバー」で、『わたし、虐待サバイバー』(ブックマン社)の著書がある札幌市に住む羽馬(はば)千恵さん(38)さんは、(1)経済的援助など公的支援の充実、(2)教育──この2点が必要だと説く。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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