保育園の取り組みで、生のアジに直接手で触れ、保育士にサポートしてもらいながら慎重に包丁を入れていく園児(写真:社会福祉法人どろんこ会提供)
保育園の取り組みで、生のアジに直接手で触れ、保育士にサポートしてもらいながら慎重に包丁を入れていく園児(写真:社会福祉法人どろんこ会提供)

 動物の命をいただくことは、大切であると同時に残酷さもある。幼い子どもたちには、どのように伝えていくべきなのだろうか。AERA 2022年2月14日号の記事を紹介する。

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 動物の命は大切に。幼い子どもたちにも必ず教える。一方で、その肉を食べる矛盾はどう伝えるか。事実を伝えるのは残酷すぎる気もする。

 しかし、あえて「すべて見せるべきだ」とする考えもある。

「事実は事実としてきちんと受け止めて、未来の社会を自分の頭で考え行動していける子どもを育てたい。そのためにも、自分たちが口にするものがどこから来ているのか、3歳から5歳という大事な人格形成期のうちに『見せて教えていく』必要性を強く感じています」

 こう話すのは、全国約140カ所で保育園などを運営する「社会福祉法人どろんこ会」理事長の安永愛香さん(48)だ。

 系列保育園の5歳児クラスでは、アジの三枚おろしに挑戦する。別の保育園では、3~5歳の園児20人が参加して、鶏をさばいて実際に食べる。鶏に目隠しをし、保育士が首を折り血抜きをする。鶏を熱湯に入れ、羽をむしり、解体し、火をおこして焼く。すべての過程を子どもたちは見つめ、手伝う。

■「本物」に勝るものなし

「血抜きの場面では、子どもたちは緊張した面持ち。『かわいそう』という声も上がりましたが、食べるときにはもう『おいしいね!』と無我夢中。そんな驚きや喜びの様子を見ていると、食と食材の循環を学ぶためにも、やはり『本物』を体験するに勝ることはない、という思いを強くしました」

 違う形で「本物」に親子で触れた人がいる。エッセー漫画家のカワグチマサミさん(37)は2019年冬、兵庫県で但馬牛の繁殖を行う畜産農家「田中畜産」を、当時6歳の息子「そーちゃん」と取材で訪れた。

 実際に生で牛を見て、触り、飼料を与える。「牛さんかわいい! めっちゃごはん食べるで」と喜ぶそーちゃんに、カワグチさんは「その牛、そーちゃんが食べるかもしれんよ」と伝える。

「それって、まじ?と(笑)。わかっているのか、わかっていないのか微妙でした。でも大切に育ててくださる方がいて、流通されて、ようやく家まで届くんだよ。それってこういう生きている牛の肉なんだよという過程を伝えることができたのは、何よりも良かったと思います」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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