放火による火災で大阪市北区の雑居ビルにある「西梅田こころとからだのクリニック」の患者やスタッフら25人が犠牲になった。事件後、SNSでは精神疾患を持つ人を中傷する書き込みが散見された
放火による火災で大阪市北区の雑居ビルにある「西梅田こころとからだのクリニック」の患者やスタッフら25人が犠牲になった。事件後、SNSでは精神疾患を持つ人を中傷する書き込みが散見された

 昨年12月の大阪ビル放火殺人事件は、世間に大きな衝撃を与えるとともに、精神疾患に対する中傷も起き、障害を持つ人に二重の傷を残した。身近な理解が、教育が足りていない──。ノンフィクションライター・古川雅子氏が、精神疾患がいまだタブー視される日本の課題を追った。AERA 2022年2月14日号から。

【写真】発達障害やパニック障害を抱えている川田直美さん。「障害者ドットコム」で働いている

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 細長い建物を取り巻くように、ビルの4階から上がる黒煙。昨年12月17日に大阪市北区で発生した放火殺人事件で、雑居ビル内の「西梅田こころとからだのクリニック」に通っていた患者たちと西澤弘太郎院長(49)、クリニックのスタッフら25人が犠牲になった。

 大阪府は事件後に、通院患者らを対象にした電話による相談窓口「こころのホットライン」を開設した。府こころの健康総合センター相談員の道崎真知子さんによれば、開設した12月20日から1月21日までの1カ月間に、ホットラインのみで372件。その他の心の電話相談に寄せられた相談も合わせて402件の相談があったという。

「『自分だけ助かってしまったんじゃないか』と心を痛める方もいました。件数は落ち着きましたが、『今になって、やっと(電話を)かけられた』という方もいらっしゃいます」(道崎さん)

 現場クリニック以外の患者にも動揺は広がっている。当事者の話を聞いた。

「私は事件現場と近いところにあるメンタルクリニックに通っています。火災の直後は、『次は自分かも』と思うと怖くて通院できなくなっていました」

 こう話すのは、大阪市勤務の川田直美さん(49)。自身も発達障害やパニック障害を抱えている。障害を持つ人の就労につなげる相談支援やサイトの運営を行う「障害者ドットコム」のスタッフとしても働く。現場から同社までは300メートル足らず。利用者の一人が現場のクリニックの患者でもあり、事件に巻き込まれて命を落とした。

■偏見や差別助長する言説で当事者は二重に傷つく

 事件後に死亡した谷本盛雄容疑者(61)が通院者の一人で精神疾患を抱えていたことがニュースで流れると、ネットなどで精神疾患を抱える人を中傷する書き込みが散見された。

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