ウクライナの首都キエフで1月30日、市民向けの訓練会に参加し、木型を使って銃の構え方を学ぶ人たち
ウクライナの首都キエフで1月30日、市民向けの訓練会に参加し、木型を使って銃の構え方を学ぶ人たち

 ロシア軍のウクライナ侵攻に備え、軍事訓練を受ける市民たちが出始めている。市民たちの声を、現地で取材する朝日新聞記者が報告する。AERA 2022年2月14日号から。

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 迷彩服を着た指導官の声が響く。

「銃は持つときは必ず体の正面で45度下に傾けて。例え弾が入っていなくても、撃つとき以外は上には向けない」

 ウクライナの首都キエフで一般市民向けの軍事訓練会が開かれた1月30日、工場跡の広大な敷地にさまざまな服装の市民約300人が集まった。手にするのは自動小銃を模した木型だ。気温は零下。30人前後のグループに分かれ、銃の扱いの「基本の基」から指導が始まった。

 主催したのは、国民に人気の高い元義勇軍で今は正規軍の一部となった「アゾフ連隊」の関係団体。ロシア軍が国境に集結した昨年4月から軍経験者に訓練の場を提供してきたが、今回は武器経験のない市民にもSNSで参加を呼びかけた。10代の息子2人と夫の家族連れで来たオリガさん(39)は言う。

「息子を軍隊に入れるつもりはないが、脅威がある以上、万が一のときの知識は必要」

 本当にロシア軍は侵攻してくるのか。昨年12月の世論調査で49%が「現実の脅威」とする一方、41%は「侵攻は起きない」と答えた。街では戦争への不安と「平常心を保ちたい」という思いがない交ぜだ。

AERA 2022年2月14日号より
AERA 2022年2月14日号より

■「可能性は30%くらい」

 訓練に参加した法学生のヤロスラフ・バクリチクさん(17)は「侵攻の可能性は30%くらい」としながらこう話す。

「それでも僕の国はずっと脅威の中にある。軍人でなくても市街戦に遭遇するかもしれない。銃の使い方を知っておかねば」

 ロシアはいったん軍を撤収させたが、10月末にウクライナ国境近くの軍を再び10万人規模に増強させた。そして、北大西洋条約機構(NATO)が「ロシア軍によるウクライナ侵攻の可能性」を警告し始めた12月、プーチン大統領は「米国とその同盟国にNATOの東方拡大をやめるよう求める」と演説し、軍事圧力の狙いを鮮明にした。

 ロシアは8年前にウクライナ領の南部クリミア半島を併合して以来、ウクライナへの介入を続け、国際的な批判を浴びてきた。今回の動きには、その批判を一転させ、安全保障をめぐる米国との駆け引きに持ち込みたい考えがにじむ。(朝日新聞記者・喜田尚=キエフ)

AERA 2022年2月14日号より抜粋