タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子

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 受験シーズンです。どうか、みんな穏やかな気持ちで春を迎えられますように。

 進路の選択では、周囲の大人がよかれと思って色々なアドバイスをするもの。「女の子が理系なんて」「男が文学なんて」とか、「女は地元の大学で」「男なら上を狙わないと」と言われた経験のある人もいるでしょう。「一流大でなければ意味がない」「医学部以外はダメ」などとプレッシャーをかけられてしんどかった人もいるはずです。大人が子どもに「○○でなければ人生はおしまい」と言わずにいられないのは、心と社会に余裕がないことの表れです。「大丈夫、人生はああもこうも生きられるんだよ」と言ってあげられる世の中だといいですね。大人も子どもも、もっと安心して生きていけるでしょう。

 私は中高大と一貫校に通いましたが、高校1年生の時に大学受験をしたいと思ったことがあります。母に「なんのために苦労して一貫校に入れたと思っているの」と言われて、なるほど親はそういうつもりだったのだなと諦(あきら)めました。もし私が男の子だったら、母は止めなかっただろうと思います。当時は80年代バブル期。雇用のジェンダー格差は今以上に大きく、女の子は「お嬢様ブランド」を切り札にしてエリートと結婚するのが幸せ、という考えが根強かった時代です。あのとき受験していたらどうなっていたかなあと思うこともありますが、結局は今と同じようなことをしていただろうと思います。ものを考えることや言葉で伝えることが好きという性質は変えようがないですから。

「大丈夫、人生はああもこうも生きられる」。大人がそう子どもに伝えられる世の中であってほしい(写真:gettyimages)
「大丈夫、人生はああもこうも生きられる」。大人がそう子どもに伝えられる世の中であってほしい(写真:gettyimages)

 親は、子どもの代わりに人生を生きてあげることはできません。どう生きたいかを本人が決められるように応援するのが仕事です。若者たちには、12や15や18の春で人生は決まらないと心から言ってあげたいし、何度でも選び直し、やり直せる社会を作りたいと強く思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2022年1月31日号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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