事件を起こした高校2年の少年は、最難関の東大理・以外には目もくれずに勉強に励んでいたという
事件を起こした高校2年の少年は、最難関の東大理・以外には目もくれずに勉強に励んでいたという

 大学入学共通テストが行われた東京大学前で、少年が3人を刺した事件。精神科医の和田秀樹さんと若者の孤独に詳しい大空幸星さんはどう見たのか。新学習指導要領の問題点、教師と子どもの距離感、そして周囲の大人ができることとは──。AERA 2022年1月31日号の記事を紹介する。

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──学力偏重教育の危うさはこれまでにも指摘されているところで、2022年度から高校で実施予定の新学習指導要領では「生きる力」の育成を掲げ、多様な観点から学びを評価する動きもあります。

和田:ただ問題もあって、子どもには多様な価値観を求める一方で、その評価軸は担任の主観に依存している面があります。例えば、「豊かな人間性」とひと口に言ってもさまざまな方向性があるのに、授業に積極的に取り組んだか、教師受けのいいことを言えるかといったことだけしか評価されない恐れもあります。それが極まれば、権力のある教授や教師に忖度できる人間ばかりが高い学歴を得る社会になることもあるわけです。

 アメリカのハーバード大学でも面接試験はありますが、教授には面接させません。試験担当者は、むしろ教授とは違う考え方や技能を持っている人を積極的に採用している。評価する学校側の偏差値序列システムは残したまま、「生きる力」といった主観的評価を入れても、どこまで効果があるのか疑問です。

大空:事件後に少年が通う高校が出したコメントでは、コロナ禍で「個々の生徒が分断され」たという表現が用いられていますが、同時に教師と子どもの分断をどう埋めるかということも課題だと思います。NPOに相談にくる子は、「心配をかけたくない、迷惑をかけたくない」という気持ちがすごく強い。そこには親だけでなく、先生も含まれます。学校のなかで距離感があるのです。

■誰かに頼る方法を知る

──教師を「相談に乗ってくれる味方」としてではなく、「失態を見せられない評価者」として認識している側面もありそうです。

大空 距離が縮まらないのは、コミュニケーションの方法にも原因があります。学校では今でも対面主義的なところがあって、出席を重んじる。でも、今の子はチャットでコミュニケーションを取るのが当たり前だし、そのほうが気軽に自分の気持ちを話せることもある。教育も社会福祉も、コミュニケーションの量を増やすことばかり考えがちですが、質にも目を向けないと、孤独感の解消につながっていかないと感じます。

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