和田秀樹(わだ・ひでき、左):1960年生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。国際医療福祉大学赤坂心理学科教授。受験や教育の社会評論も行う/大空幸星(おおぞら・こうき):1998年生まれ、慶應義塾大学4年。2020年3月、望まない孤独の根絶を目的にNPO法人「あなたのいばしょ」を設立
和田秀樹(わだ・ひでき、左):1960年生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。国際医療福祉大学赤坂心理学科教授。受験や教育の社会評論も行う/大空幸星(おおぞら・こうき):1998年生まれ、慶應義塾大学4年。2020年3月、望まない孤独の根絶を目的にNPO法人「あなたのいばしょ」を設立

 東京大学前で少年が3人を刺傷した事件の背景には、偏差値至上主義がある。AERA 2022年1月31日号ので、精神科医の和田秀樹さんと若者の孤独に詳しい大空幸星さんが緊急対談した。

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 東京大学前の路上で1月15日、大学入学共通テストの受験生ら3人が刺された。殺人未遂容疑で逮捕された高校2年の少年は、医師になるため最難関の東大理科III類を目指していたが、成績が上がらず悩んでいたという。東大医学部出身の精神科医・和田秀樹さんと、孤独に悩む人からのチャット相談に応じるNPO法人「あなたのいばしょ」の理事長・大空幸星さんの対談は、偏差値至上主義の問題点から始まった。

──報道によると、逮捕された少年は進学校に通っており、犯行時に高校の偏差値を叫んでいたという目撃情報もあるそうです。和田さんは灘高校出身ですが、進学校ほど偏差値の高低によって校内の立場が左右されるという傾向はあるのでしょうか。

和田:当時の経験から言うと、東大理IIIに入る子は一目を置かれますが、それ以外の学部は同じ東大でもちょっと下に見られるといった感じはありました。あとは東大受験塾の洗脳もあります。有名な東大受験塾では5~6時間もかかる宿題が毎日出されるなどして、新聞やニュースを見る時間もない。世の中のことを全く知らないまま東大に入る子も少なくありません。

 それから特に地方の進学校では成功のロールモデルが限られていることもあります。東京都内だと、高卒でIT企業を起業して成功したり、東大を出て金融業界などで活躍したりしている大人が身近にいますが、地方だと医者が一番偉かったりする。成功するには医者か公務員になるしかないと思い込んでしまう。

大空:私が運営するNPO法人には、これまで25万件以上の相談が寄せられていますが、過度に親や教師の期待に応えようとして「自己否定ループ」に陥ってしまう子が少なくありません。特に成績の良い子ほど、テストで高得点を取ることが自己肯定感と直結している部分があります。だから、少し点数が下がっただけでも自分の存在意義が揺らいでしまって、「もっと頑張らないといけない」と強迫観念を抱きやすい。これは受験期だけの話ではなくて、中学・高校を含めて多い相談です。

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