その頃、父が病気になり、薬学部を目指すことにしたんです。「地球を救っている場合じゃない。お父さんを救わなきゃ」と。でも、化学式が全然わからない。そもそも1、2年の教養科目は演劇論や文系科目を選択していたから、薬学部の授業はちんぷんかんぷん。注射をするのも苦手で、向いていないなと。文系就職しました。 

 でも、会社員生活の中で論理的な思考が役に立ちました。理系の研究発表では仮説を立てて考察をします。おかげでダラダラ話さず、結論から話すプレゼンができたんです。 

 試験はできなかったけど、物理の理論は好きです。例えば、作用・反作用の法則。机に手を押し付けると、机も同じ力で押し返している。それってすごくないですか。全てのものが私を押し返しているんですよ。理系には、文系では知りえないことがたくさんある。できなくても、面白いと思うなら理系に行ったほうがいいと思います。 

 (構成/編集部・井上有紀子)

AERA 2022年1月24日号