藤井聡太が初の王将位獲得、史上最年少五冠に向けて幸先のよいスタートを切った。注目される大舞台で、新時代の序盤戦術を披露した(photo 代表撮影)
藤井聡太が初の王将位獲得、史上最年少五冠に向けて幸先のよいスタートを切った。注目される大舞台で、新時代の序盤戦術を披露した(photo 代表撮影)

 王将戦七番勝負が始まり、挑戦者の藤井聡太竜王が渡辺明王将に先勝した。持ち時間をともに使い切る大熱戦を制し、史上最年少五冠に向けて好発進した。AERA 2022年1月24日号の記事を紹介する。

【藤井聡太vs.渡辺明王将】これまでの対戦結果と今後の対戦予定はこちら

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 またもや、令和の名局が誕生した。そう言ってなんら差し支えないであろう、ハイレベルにして、劇的な一局だった。

 年が明けた1月9日、渡辺明王将(三冠、37)に藤井聡太竜王(四冠、19)が挑戦する王将戦七番勝負が始まった。将棋界における新年最初の大勝負は、その開幕第1局だ。

 対局者が盤を前にして全力を尽くすのは、どんな状況でも変わらない。その上で、将棋の棋戦にはそれぞれカラーがある。王将戦は主催がスポーツニッポンということで、盤外でバラエティー色豊かなのが特徴だ。

 対局がおこなわれるのは静岡県の掛川城。スポニチ正月版の紙面用に、藤井は山内一豊の甲冑を着て撮影された。「内助の功」でよく知られる一豊は、掛川城主を経て土佐一国の大名へと出世した。

 対する渡辺は天下人、徳川家康姿だった。渡辺は過去に6回掛川城で対局し、一度も負けたことがない。渡辺は過去に王将位を通算5期獲得。王将戦という祝祭の場において、近年は常に主役であり続けてきた。

 対局開始前の記者会見。藤井は渡辺が掛川で無敗なのは知らなかったという。

「あまりうれしくないことを聞いてしまったなと思ったんですけど」(藤井)

 そう苦笑して答えてみせたが、それはファン向けのサービスであろう。もとよりそんなことに興味はなく、意図せずして既存の記録を次々に破っていくのが藤井だ。

■「四冠」と「三冠」の対決

 たとえば渡辺と豊島将之(現九段、31)はこれまで、タイトル戦でストレート負けを喫したことがなかった。しかし今年度、藤井は渡辺に棋聖戦五番勝負で3連勝、豊島には竜王戦七番勝負で4連勝と圧倒した。

 現在はすでに「藤井時代到来」と言っていいものなのか。もし結論を急ぐ必要がないのであれば、それはこの王将戦の結果を見てからでも遅くはないだろう。藤井は四冠だが、もう一方の雄、渡辺は三冠だ。タイトルの数を見れば、まだ藤井1人が独走状態に入ったわけではない。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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