うえだ・しんいちろう/1984年、滋賀県出身。37歳。代表作に「カメラを止めるな!」(2018年)、「100日間生きたワニ」(21年)photo 写真部・松永卓也
うえだ・しんいちろう/1984年、滋賀県出身。37歳。代表作に「カメラを止めるな!」(2018年)、「100日間生きたワニ」(21年)photo 写真部・松永卓也

「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督の最新作「ポプラン」。“イチモツ”に逃げられた男性の奇想天外な物語は、笑いとともに多くの気づきをくれる。AERA 2022年1月3日-1月10日合併号から。

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 主人公・田上は漫画の配信事業で成功した若き経営者。しかし順風満帆にみえた人生に衝撃の事件が起こる。ある朝、起きると大事なイチモツが無くなっていたのだ! 上田監督は話す。

「物語を着想したのは10年ほど前です。自分の体の一部が家出をしてしまったら?という設定が浮かんで、すぐに最初のシナリオを書きあげました」

 構想10年で映画化が実現。物語の大筋は同じだが、主人公像は変化した。

「以前は『日々を無為に生きている男』という設定でしたが、今回『成功を手にしたけれど自分をどこか偽り、ごまかしながら生きている男』になった。自分が経験してきたことが反映されていると思います」

■主人公の姿が重なる

 田上はイチモツを捜す旅で、自身の過去や人生と向き合うことになる。演じるのは、映画「メランコリック」のプロデューサー兼主演の皆川暢二さんだ。

「『メランコリック』には『ちくしょう! くやしいけどめちゃくちゃ面白いな!』と思わされました。ネットの動画で『メランコリック』を熱く語る皆川さんを見たんです。おそらく皆川さんは『成功の味』もその後に来る『壁の厚さ』も知っている。一緒にこの映画を作るのは彼しかいないとオファーをしました」

 俳優たちの大真面目な演技と起こる事件のギャップが笑いを誘い、自分探しというテーマを浮かび上がらせる。「男性の象徴の喪失」というモチーフに、現代社会での男性の生きにくさや悲哀を深読みしてしまう。

「男性の、というよりも、男女問わず自分の一部がなくなってしまう感覚や自分を振り返るという普遍的なことに受け止めることも出来ると思います。男性性を取り戻す話にも見えれば、男性性を手放す話にも見えるかもしれません。受け取り方は人それぞれです。いろんな解釈ができるように、余白や幅を作りたかった。観(み)た人どうしで、感想を語り合ってもらえればうれしいです」

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