カブトムシの生態研究家 柴田亮さん(12)/埼玉県杉戸町の小学6年生。カブトムシの生態を調べた論文が米生態学協会の専門誌に掲載された。カードマジックにもはまっている(写真:本人提供)
カブトムシの生態研究家 柴田亮さん(12)/埼玉県杉戸町の小学6年生。カブトムシの生態を調べた論文が米生態学協会の専門誌に掲載された。カードマジックにもはまっている(写真:本人提供)

 米プリンストン大の真鍋淑郎さんら歴代のノーベル賞受賞者たちは、若い頃から好奇心を糧に研究に取り組んできた。彼らに続く「タマゴ」を紹介する。AERA 2021年12月27日号から。

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「なぜだろう?」という好奇心から始めたカブトムシの観察が、これまでの常識を覆した。

 柴田亮さん(12)の自宅の木にはカブトムシが集まる。ただ不思議なことがあった。カブトムシは広く夜行性だと知られているが、庭の木には昼間も集まっていた。理由を探ろうと小学4年生の夏、庭のカブトムシをオスとメスに分けて数え始めた。

 庭の木はシマトネリコ。東南アジアが原産の外来植物だと知った。柴田さんはカブトムシが残る理由を「樹液がおいしいからだろう」と考えたが、なぜ昼間も居続けるのか分からなかった。そこで、図書館で題名に「カブトムシ」と書いてある本を片っ端から調べた。すると、シマトネリコにはカブトムシが昼間も残っているようだ、と書いてある本を見つけた。

 著者は山口大学の講師で動物生態学を研究する小島渉さん(36)。柴田さんの母親が連絡先を調べて尋ねたが、小島さんにも分からなかった。そして2人のやりとりが始まった。

 その内容は、同じ対象に魅せられた研究者同士そのもの。柴田さんが観察結果を報告すると、小島さんは「深夜や個体ごとのデータもとったら面白いことが分かるのでは?」などと助言した。柴田さんは「こうしなさい、と言わずに『こうしたら面白い』と言ってくれた。自分も不思議だな、面白そうだなという気持ちでできた」と話す。

 2年目の2020年、庭に来るカブトムシにアクリル塗料で印をつけて、162匹の入れ替わりを記録した。7~8月は2年連続で毎日欠かさず観察し、231回分のデータが集まった。それを見た小島さんは「想像した以上に精緻(せいち)。卒論でもここまで丁寧にやる学生はいない」と論文にすることを提案した。

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