対面授業を再開した近畿大学の授業風景/2020年9月14日
対面授業を再開した近畿大学の授業風景/2020年9月14日

 新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、多くの大学が対面授業を再開している。ただ、オンラインで授業を受け続ける学生も少なくない。オンライン授業を望む理由はどこにあるのか。AERA 2021年12月27日号は、学生たちの事情を取材した。

【写真】オンライン授業をきっかけにラーメン店を経営する学生も

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 100人以上入る大教室に、学生は3人だけ。東京の私立大学で教壇に立つ男性教授は11月、その光景に驚いた。

 コロナ禍で講義はオンラインで実施してきたが、感染状況が落ち着いて大学が入構や授業方法の制限を緩和したことを受け、対面授業を再開した。地方の実家に帰っている学生もいる。オンライン受講も可としつつ、「原則は対面」と周知したという。

「半分は教室に来るかなと思っていましたが、3人とは……」

 全員が遠隔で受講する形式、録画を視聴する「オンデマンド」、対面とオンラインを組み合わせた「ハイブリッド」や「ハイフレックス」──。様々なオンライン授業に取り組んできた各大学はいま、対面重視にかじを切る。文部科学省が全国の大学などを対象に行った調査(10月7日時点)では、「後期授業の7割以上を対面とする予定」とした学校が計83.2%を占めた。遠隔授業の単位の上限(卒業に必要な124単位のうち60単位)が大学設置基準で定められていることもあるが、孤独・孤立に悩む学生対策でもある。

■起きて5分で授業参加

 だが、冒頭の男性教授は言う。

「オンラインはかわいそう、学生も対面授業を望んでいる、と思っていた。でも、必ずしもそうではありませんでした」

 国際基督教大学2年の女性は、オンラインと対面を選択できる授業のほとんどでオンライン視聴を選んでいる。

「私たちは入学当初からオンラインで、学生生活はそれが当たり前。やりにくいとは感じません。ディスカッションの授業などは教室に行きますが、普通の講義はオンラインがいいです」

 教室に行くなら、家を出るまでに30分ほどかかる。それがオンラインなら、パソコンの「入室」ボタンをクリックするだけ。起きてものの5分で授業に参加できるのだ。女性はキャンパス内の学生寮に住んでいる。それでも、オンラインの便利さにはかなわないという。

 対面授業を待ち望んでいた学生は確かに多い。一方で、それを望まなかったり、新たな取り組みを始めたりした学生もいる。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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