自民党の財政政策検討本部役員会で発言する安倍晋三元首相
自民党の財政政策検討本部役員会で発言する安倍晋三元首相

「あの人は保守だから」「あの組織はリベラルだから」主義主張で何となく線を引いて、敵と味方に分ける。そんな風潮が、世の中にはびこっている。その本質を探ると──。AERA 2021年12月27日号の記事を紹介する。

【写真】2015年の安保法制反対デモ

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 政治も社会運動もマスメディアも“保守”と“リベラル”で区分する傾向が目立つ。自民党は保守で、立憲民主党はリベラル。反原発はリベラルで、嫌韓・嫌中は保守──といった具合だ。

 だが、世の中は“二項対立”でくくれるほど単純ではない。「立憲民主党の支持者で原発維持派」はいるし、岸田文雄首相はリベラルを掲げる自民党の派閥「宏池会」の会長でもある。なぜ、こんな「矛盾」がまかり通るのか。

「保守とかリベラルとか、そういう話じゃないんです」

 こう話すのは、選択的夫婦別姓の実現を国に求めるよう地方議会に陳情活動している「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田奈穂さんだ。井田さんは2018年に団体を立ち上げる際、活動内容を紹介するサイトに「当アクションは、どの政党・会派もバックグラウンドにしていません」との一文を盛り込んだ。地方議会に陳情すると、「共産党とつながりはないですよね」と保守系議員から探りを入れられることが多かったからだ。

「党派間の駆け引きの話ではない。当事者の生活上の困りごとを解決してほしい、という本質を理解してもらうため、明記したんです。右とか左とか、関係ないと」(井田さん)

 とはいえ、選択的夫婦別姓の導入に立ちはだかってきたのは自民党だ。改姓に伴う様々な問題点はかねて指摘されており、法制審議会は25年前に法改正を提言した。だが、自民党の反対でたなざらしになってきた。昨年末に策定された政府の第5次男女共同参画基本計画では、00年の最初の計画からあった「選択的夫婦別氏(姓)」という用語が、自民党の求めで消された。今年10月の衆議院議員選挙でも、多くの野党と公明党が導入を公約に掲げる一方で、自民党は「改姓による不利益の解消」を主張するにとどまった。

所信表明演説をする岸田文雄首相
所信表明演説をする岸田文雄首相

「私たちは立憲民主党や共産党の支持者と見られがちですが、イデオロギーの面から今の制度を変えたがっている人は、ほとんどいません」(同)

“選択的夫婦別姓”は保守の価値観と言える

 井田さんは今回の衆院選で、選択的夫婦別姓(別氏)制度の早期実現を目指す自民党内の議員連盟に所属する党公認候補の応援に回ったという。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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