ケンタッキー州メイフィールドにあった弁護士事務所は竜巻で壁などが全て吹っ飛び、強固に作られた金庫室だけが残っていた/12月12日
ケンタッキー州メイフィールドにあった弁護士事務所は竜巻で壁などが全て吹っ飛び、強固に作られた金庫室だけが残っていた/12月12日

 12月10日夜、アメリカのケンタッキー州などを大規模な竜巻が襲った。現地に入った記者が見たのは、被災した場所と被災を逃れた場所を分ける、紙一重の境界線だ。AERA 2021年12月27日号から。

【写真】竜巻で大きく損壊した住宅と乗用車

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 住んでいる場所が自然災害で被災するかどうかは、紙一重で決まることがある。

 米国は12月10日夜、中西部から南部にかけて大規模な竜巻がいくつも発生した。中でも被害が大きかったのは、ケンタッキー州の西側だった。

 12日朝、レンタカーを運転して被災地へ向かうと、次第に現場へ近づいている様子が分かった。道路に樹木が倒れていたり、停電によって信号機が消えていたり。だが、なだらかな丘を越えた瞬間、目に入ってくる景色が一変した。

 建物は根こそぎ倒され、屋根や壁もなくなっている。街路樹や電柱は折れ、町のいたる場所にがれきや割れたガラスが広がっていた。メイフィールドという、人口約1万人の町の中心部は、文字どおり破壊されていた。

 自宅が大破したタンナ・トンプソンさん(40)は、10日夜の出来事を振り返った。

 夫と一緒に、友人宅でクリスマスパーティーに出ていたトンプソンさんは、家族から「嵐が近づいているから、早く帰ってきた方がいい」と連絡を受け、急いで自宅へ向かった。

■地下から出て天井なく

 帰宅すると、娘や両親は既に地下室に避難していた。トンプソンさんも地下室に入ってからものの2、3分で竜巻が家を直撃した。

「2分ほどで、電気が消えた。それから30秒ほどで、次第に竜巻が近づいてくるのがわかった。まずは列車のような轟音が聞こえ、さらに大きくなって、まるで飛行機の真下にいるようだった」

 地下室の窓は割れ、上階でも何かが動いている音がした。

 竜巻が通過し、トンプソンさんの夫が地下室から出ると、最初の言葉は「屋根がない」だった。「誇張していて、屋根の一部が壊れただけかも」と願ったが、自らも見にいくと、住宅の2階部分が完全に吹っ飛び、1階の天井もなくなっていた。路上に止めていた自家用車も大破していた。

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