日本企業ではまだまだファクスが活躍している。送受信のため出社せざるを得ず、在宅勤務を妨げる理由にもなっている
(撮影/写真部・高野楓菜)
日本企業ではまだまだファクスが活躍している。送受信のため出社せざるを得ず、在宅勤務を妨げる理由にもなっている (撮影/写真部・高野楓菜)

 コロナ禍で明らかになったデジタル化の遅れ。やり玉に挙げられたのは、ファクスだ。だが、使い続ける側にも理由があるようで──。AERA2021年12月20日号の記事を紹介する。

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 ファクスにはほろ苦い思い出が詰まっている。

 私たちが新聞記者になりたてのころ、出先の記者クラブから手書き原稿をファクスで会社へ送っていた。締め切りが迫り、焦っているときに限って紙詰まりが起きた。泊まり勤務のとき、深夜から未明の時間帯にファクスの受信音が鳴ると跳び起きた。警察から事件・事故の発生を知らせるリリースのときもあれば、他社に抜かれた特ダネ記事が本社から送られてくることもあった。「ジジジ」。ファクスから紙がはき出される音が夢にまで出てきて、胃がキリキリする始末。もう30年も前のことだ。

■ファクス番号だと正確

 今はファクスを使う機会はほとんどなくなった。ところが先月、取材で自民党本部にコメントを求めた際、質問をファクスで送るよう求められた。回答もファクスで送るという。

 困った。在宅勤務中だ。自宅にファクスはない。仕方なく近所のコンビニから送った。受信したコメントは、編集部に出勤していた人にメール添付してもらい、何とか事なきを得た。

 後日、自民党本部にファクスでのやりとりが必要な理由について質問した。ファクスで質問を送ることになるのかと思いきや、今度は「メールでもよい」と言われた。

「党側からの連絡はほとんどメールで行っていますが、相手先がファクスで連絡してくる場合など、先方の状況にあわせて利用しています」との回答だった。

 メディアからの問い合わせも、党側でファクスでなければならないと定めているわけではなく、メールで問題ないという。ファクスの利点についてこんな説明もあった。「送付先を伝えるにあたり、メールアドレスよりもファクス番号のほうが正確に伝わりやすい面もあります」

 確かに、数字だけのファクス番号のほうが間違いにくい。

 東京都にも問い合わせてみた。都は本年度中にファクスの「2019年度比98%減」を目指しているという。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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