大通りに面したオフィスからは道行く人や行き交う車を眺められる。職場からは、麻布十番や白金の商店街も近い(撮影/写真部・東川哲也)
大通りに面したオフィスからは道行く人や行き交う車を眺められる。職場からは、麻布十番や白金の商店街も近い(撮影/写真部・東川哲也)

 短期集中連載「起業は巡る」。第2シリーズの最後に登場するのは、日本にプログラミング教育を根付かせた「ライフイズテック」の水野雄介(38)だ。AERA 2021年12月13日号の記事の3回目。

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 米国では07年にアップルのiPhoneが登場。生まれた時からネットに触れている「デジタルネイティブ」と呼ばれる子供たちが、プログラム言語を操ってアプリを開発し、大ヒットして大金を手にするというニュースが伝わっていた。なぜ日本ではそうならないのか。

「俺たちが英語嫌いになったのはなんでだっけ」

 3人は子供の視点に戻って「教育」を考え直した。

「まず、これは楽しいぞ、と思ってもらわなきゃダメだよな」

「自分のために何かを作るだろ、すると人に見せたくなる。見せるってことは、誰かのために作るってこと。それが世の中の課題解決につながるんだよ」

 ネットで米国のIT教育事情を調べていると、数多(あまた)の起業家が輩出しているスタンフォード大学の学生が先生役になる、子供向けの「ITキャンプ」があることを知った。子供を参加させるという女性を見つけ「見学に行きたい」と頼み込んだ。

 緑の芝生が広がる広大なキャンパス。おそろいのTシャツを着て、学生からプログラミングの手ほどきを受ける子供たちの顔は輝いていた。

「うん、これだ!」

「AKB時計」で確信

 3人はITキャンプを日本に持ち込むことを最初の事業にし、10年7月「ライフイズテック」を設立した。預金がなかったので、創業資金の300万円は先輩や友人からかき集めた。

 最初のキャンプは11年8月、東京大学本郷キャンパスと慶應大学湘南藤沢キャンパスで開催した。3日間でiPhone向けのアプリを作るカリキュラムも、3人で考えた。丁寧に教えたかったので定員は7人。ひと夏で40人の子供が集まった。

「時計アプリを作ってみよう」というコースでは、AKB48の熱烈なファンだった中学生が、“総選挙1位”の前田敦子が文字盤の1、2位の大島優子が2を意味する時計を作った。ファンにしか読めないが、世界にただ一つのアプリには違いない。

「これだよねえ」

 3人は目指す方法が間違っていないことを確信した。

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