水野雄介(みずの・ゆうすけ)/1982年生まれ、北海道出身。38歳(撮影/写真部・東川哲也)
水野雄介(みずの・ゆうすけ)/1982年生まれ、北海道出身。38歳(撮影/写真部・東川哲也)

 短期集中連載「起業は巡る」。第2シリーズの最後に登場するのは、日本にプログラミング教育を根付かせた「ライフイズテック」の水野雄介(38)だ。AERA 2021年12月13日号の記事の1回目。

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 夏の甲子園、神奈川県予選の3回戦。水野雄介は横浜スタジアムのベンチから「怪物」を見つめていた。相手は横浜高校の松坂大輔。「次の回、代打で行くぞ」。6回表の攻撃が終わったところで監督にそう告げられたが、その裏にコールド負け。怪物と対戦することなく、水野の夏は終わった。

 甲子園で春夏連覇を果たし、鳴り物入りで西武ライオンズに入団した松坂の年俸は3年目で1億円に達した。福岡ダイエーホークスの杉内俊哉、阪神タイガースの藤川球児ら逸材がそろったこの世代は「松坂世代」と呼ばれる。そんな同世代の人たちが、水野には眩(まぶ)しく見えた。

 慶應義塾大学の大学院に進んだ水野は、アルバイトで開成高校の講師を始めた。学年の半分近くが東京大学に進学する超進学校。水野はそこで、野球部の練習も手伝うようになる。

ドサクサ!ドサクサ!

 監督は青木秀憲。ノンフィクション作家の高橋秀実が2012年に書いた『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で一躍有名になった彼の指導方法は独特だった。

 当てにいくスイングでヒットを打っても「なんだそのスイングは!」と激怒。思いきりのよい空振りには「ナイス空振り!」。バントやサインプレーは一切なしで、ベンチから「ドサクサ!ドサクサ!」を連呼する。青木はこう語っている。

「思いっきり振って球を遠くに飛ばす。それが一番楽しいはずなんです」

 青木に「打つのはボールじゃない。物体だ!」と教えられた開成のバッターは、ボールを遠くに飛ばせる衝突角度だけを考えて全打席フルスイング。下位打線に運よくヒットや四球が出ると、相手チームは動揺する。1番に据えた好打者がチャンスを広げ、2番に入った最強バッターでガツンと大量点を奪う。あとはドサクサで逃げ切る。

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