かつてはいろんな駅で見られた黒板の伝言板。最近見なくなったと思ったら、コロナ禍の京成佐倉駅で復活していた。見るだけでほんわかする。AERA 2021年12月6日号の記事を紹介する。
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「先に帰ります」
「アルバイト行ってきた」
「彼女できました!!」
千葉県の京成佐倉駅の伝言板には、この夏そんな文字がいくつも躍っていた。かつてはどの駅にも設置され、遅刻しそうなときや、落とし物を駅員室に届けたことを伝えるメッセージなどでにぎわっていた伝言板だが、携帯電話の普及とともにその姿は消えていった。
■いつの間にか消えた
それが、静かに“復活”していた。
「駅装飾について職員たちと話し合うなかで、昔あったものを再現したいというアイデアが出ました。そこで生まれたのが伝言板です」
そう説明するのは、駅長の藤澤弘之さん(55)。36年前に京成成田駅で勤務していたときは、まだ現役だった伝言板だが、いつの間にかなくなっていたという。
「コロナで生活が制限される今は、人と人とのつながりを直に感じづらい。そうしたことを思い出せるような場所になればと思ったんです」(藤澤さん)
温かみを感じられるように、既製品を使うのではなく、職員で手作りした。板に黒板素材のシートを貼り、駅員室にある窓の桟にはめこんだ。白、ピンク、黄色のチョークと黒板消しを添えて、新型ウイルスが猛威をふるっていた5月2日から10月31日まで設置した。
“伝言板世代”ど真ん中の高齢者からは、「懐かしい」の声が上がった。一方、駅を利用する学生のなかには、伝言板なんて見たことも聞いたこともない、という人もいたという。藤澤さんは言う。
「でも、順応性が高いし、SNSに書き込むことも慣れている世代です。その日学校であったことや、部活動の試合結果を書いてくれるようになりました」
■「余白」に人間味が出る
当初はネガティブな内容や落書きがされないか、心配する気持ちもあったという。だが、伝言板に並んだのは、テストが赤点だったこと、近くで猿が出たことを注意するメッセージなど、ほのぼのする言葉や役立つ情報が多かった。時々、若者の間で流行(はや)った、性表現の「大人な隠語」が見え隠れしたが、それはいつの時代でもあったこと。7月25日には、兄妹でオリンピック金メダルを獲得した阿部一二三・詩選手らを祝う声や、彼女ができた報告を祝福する声もあふれた。