東京都港区の六本木ヒルズで開いた「フェムテック・フェス 2021」。10月22日から3日間の会期中は大勢の女性たちが訪れた(撮影/写真部・東川哲也)
東京都港区の六本木ヒルズで開いた「フェムテック・フェス 2021」。10月22日から3日間の会期中は大勢の女性たちが訪れた(撮影/写真部・東川哲也)

 短期集中連載「起業は巡る」の第2シリーズがスタート。今回登場するのは、フェムテックで女性の悩みの解消をめざす「フェルマータ」の杉本亜美奈(33)だ。AERA 2021年11月29日号の記事の2回目。

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 海外生活が長いアミナには、就職活動という概念がなかった。

「会社員になって、私は何をするんだろう?」

 迷いの中にいた11年12月、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)が発足した。公衆衛生の専門家としてメンバーに加わるのは自然な流れだった。半年間、アミナは原発事故による被災者の内外被曝(ひばく)や健康管理の研究に没頭した。

 委員長は医学博士で東大名誉教授、日本学術会議の会長も務めた黒川清。委員には島津製作所フェローでノーベル賞受賞者の田中耕一もいた。そうそうたるメンバーの中で揉(も)まれているうちに、就職する気持ちはますます薄れていった。

 そんなアミナに目をかけていたのが、社会起業家の小林りんだった。東大で開発経済を学び、モルガン・スタンレーやITベンチャーのラクーン、国際協力銀行で働いた後、米スタンフォード大学で国際教育政策の修士を取得。「教育から日本を変える」と、軽井沢に日本初の全寮制インターナショナル高校ISAKを立ち上げた。それに、アミナは5年間関わった。

孫泰蔵に泣いて応戦

 ある日、教育ベンチャーを立ち上げようとしていたISAKの同僚に誘われ、海の見えるイタリアンレストランに行った。

「遅れてごめん」

 そこに、颯爽(さっそう)と登場したのが孫泰蔵だった。先端テクノロジーに対する深い造詣をのぞかせながら、テーブル越しに皆と教育論を闘わせる。そんな孫は、アカデミックな世界で生きてきたアミナが、これまで見たことのないタイプの人間だった。

 次の日、Facebookで友達になった孫にメッセージを送った。

「泰蔵さんのところで働きたいです!」

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