山口二郎(やまぐち・じろう)1958年、岡山県生まれ。法政大学法学部教授(政治学)。近著に『民主主義は終わるのか』、共著に『異形の政権 菅義偉の正体』など(photo 菅沼栄一郎)
山口二郎(やまぐち・じろう)1958年、岡山県生まれ。法政大学法学部教授(政治学)。近著に『民主主義は終わるのか』、共著に『異形の政権 菅義偉の正体』など(photo 菅沼栄一郎)

――「民主王国」と言われた愛知県では今度の総選挙で、トヨタ労組がこれまでの立憲議員への支援を取りやめました。全国でも労働組合の保守化が目立っています。立憲ら野党と労組との関係も今後、変質せざるを得ないのでしょうか。

 愛知県で、立憲は4,5議席を失いました。全国でも、連合系の民間労組が動かず、最後の数千票の勝負で及ばなかった選挙区があります。日本経済、製造業の衰弱を感じました。労働組合が政治活動をやっている余裕がなくなったんでしょう。政府にすり寄っていかないと、企業として生き残れない。そういう局面なのかな、と思いました。もともと、企業別組合は経営と一体だったから、不思議じゃないんですけれどね。正確に言えば、野党を支持する余裕がなくなった。これからは、例えば新潟県のように、地域レベルで信頼関係を作っていくしかないでしょうね。

――新潟県では今度の選挙で、六つの小選挙区のうち、立憲公認が3、無所属が1の計4選挙区を野党系がとり、地元の市民連合は「いち早く政権交代を果たした」と意気上がりました。

 新潟県は日ごろの運動量が違いました。市民連合が、県の地方連合会や政党の地方支部と議論を重ね、選挙の経験を重ね、厚い信頼関係を築いた。連合が共産党との関係に異議を唱えるようなことはありませんでした。

■野党共闘の成果は明らか

――先の総選挙の「総括」はこれからですが、立憲は109議席から96議席に、13議席減らした。4党をまとめた「野党共闘」は失敗だったと考えますか。

 メディアがどうして「失敗」を強調するのかわかりません。共闘されるのがイヤだ、怖いと思っているからではないでしょうか。野党は、220近くの小選挙区で候補者を一本化しましたが、立憲はこのうち57議席で勝ち、前回よりも9議席増やしました。別会派を作った野党系の無所属(茨城や福島、新潟など)5議席を合わせると「14議席増」となります。野党共闘の成果は明らかです。

 さらに、このうち1万票差以内で負けた接戦区が29選挙区。ここでひっくり返っていたら、自民党を過半数割れに追い込めるところでした。200以上の小選挙区で野党の候補者を一本化して、自民・公明の候補とどっちを勝たせるか?と迫る初めての試みでしたが、残念ながら、ギリギリのところでいま一歩、力が及ばなかった。

 一方で、比例区では22議席も減らしました。敗因はそこにあります。

――確かに、自民党幹部は、「一本化は脅威だった。もっと負けると覚悟していた」と胸をなでおろしていました。一方で、先日の朝日新聞天声人語は、「一本化を進めるべきか」に対し51%が「そうは思わない」と答えた調査結果を紹介しながら、世論の「冷ややかな視線」を指摘しました。

 選挙前の読売新聞の調査では、一本化について52%が賛成していました。選挙後の調査で否定的な意見が多いのは、自民党支持層の反発の表れだと思います。野党側から言えば、もっと早い段階から態勢を作って、浸透を図っていれば、との反省もあるでしょう。「一本化」に時間をとられて、最後に息切れしてしまった。

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組合頼り・風頼みの体質を転換