ヤン ヨンヒ/1964年生まれ、映画監督。最近はイエール大学、ハーバード大学から、授業でデビュー作「ディア・ピョンヤン」を語ってほしいと呼ばれ、BBCラジオもまたヤン自身のストーリーを番組にしている(写真/Portrait Standard撮影)
ヤン ヨンヒ/1964年生まれ、映画監督。最近はイエール大学、ハーバード大学から、授業でデビュー作「ディア・ピョンヤン」を語ってほしいと呼ばれ、BBCラジオもまたヤン自身のストーリーを番組にしている(写真/Portrait Standard撮影)

 ヤン ヨンヒ監督の新作、「スープとイデオロギー」が来年6月に公開される。AERA 2021年11月15日号で、ある剽窃事件と、それを経ての韓国映画界の成熟について語った。

【「スープとイデオロギー」の場面写真はこちら】

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 ヤン ヨンヒ監督が、新作「スープとイデオロギー」を完成させて韓国から帰国した。

 過去作品の「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」「かぞくのくに」では、帰還事業で北朝鮮に帰国していった3人の兄と、朝鮮総連の幹部であった父を含む家族の相克、国家と個人の葛藤を一貫して描き続け、いずれも国際的に大きな評価を得てきた。

「スープとイデオロギー」は、そのテーマの集大成とも言える作品となった。これまで自らの半生について沈黙を保っていた母が、済州島4.3事件(1948年に韓国軍によって島民の約5分の1が殺害された虐殺事件)の被害者であったことを語り出したことから、カメラは回り出し、韓国のみならず在日社会においても長くタブーとされていたこの島民虐殺事件について押し入っていく。

 アンジェイ・ワイダがポーランドの国家的禁忌であった「カティンの森」を悲願として制作したのは、自身の父親がこの事件に巻き込まれていたからであるが、ヤン監督もまた同様のアプローチと言えようか。

■韓国映画界の闇と希望

「スープとイデオロギー」は完成早々、韓国のDMZ国際ドキュメンタリー映画祭で最高賞を受賞する。「2年前の私は韓国で映画制作だけをするつもりでしたが、滞在中に予想外の有意義な体験を多々することになりました」と言う。

 新作の編集中に何があったのか。韓国映画界の闇と希望を語ってもらった。

──2019年、ポン・ジュノ監督がパルムドールを取りましたが、今更ながらに韓国映画のすばらしさは、世界から注目を集めています。かつての軍事独裁時代を経て、今のこの映画文化の興盛を支えているものは何なのでしょうか。

ヤン ヨンヒ監督:DKG(韓国映画監督組合)が非常に頑張っているんです。映画界における#MeTooやパワハラ、著作権の問題なんかについても徹底的に取り組んでいます。日本にいてよく感じるのが、何かの取り組みに対して「海外ならともかく、日本では無理だよね」というような言質です。でも、韓国は日本より、状況が悪い中からがんばったわけです。

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