遅かれ早かれ、藤井聡太が将棋界の第一人者となる未来は確定していると言ってよい。ただしそれが目前のことか、まだまだ先かはわからない(代表撮影)
遅かれ早かれ、藤井聡太が将棋界の第一人者となる未来は確定していると言ってよい。ただしそれが目前のことか、まだまだ先かはわからない(代表撮影)

 藤井聡太三冠が竜王戦七番勝負で3連勝を決め、史上最年少四冠まであと1勝と迫った。上級者であれば誰もが驚く「重い」角打ちの一手で、難敵・豊島将之竜王を破った。 AERA 2021年11月15日号から。

【写真】藤井聡太三冠が竜王戦第3局で選んだおやつは?

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「判断力というのがちょっとやっぱり、まだまだ足りないのかなと思ったので、第4局までに少しでも修正していい状態で臨めればと思います」

 10月30、31日の竜王戦七番勝負第3局が終わった後、若き挑戦者・藤井聡太三冠(19)はそう振り返った。いつものように、まるで敗れたかのようなコメントだった。しかし王者・豊島将之竜王(31)に堂々たる内容で勝利を収めた。それも開幕から一気の3連勝。竜王位獲得、史上最年少での四冠同時制覇に向けて、あと1勝と迫った場面である。

「これ以上いったい、なにを修正するというのか……?」

 多くの観戦者はそう感じただろう。この成績でなお、この謙虚さでは、どうにもスキが見当たらない。そこには将棋史上におけるあらゆる記録を塗り替えていく、藤井にしか見えていない世界があるのかもしれない。

 本局、先手番は藤井。角換わりから互いに手早く攻めの銀を押し上げる「早繰り銀」に進んだ。古くからある戦型ながら、時代の最先端をいく両者の応酬は非凡で、観戦者の目に新しく映った。1日目午後。豊島は強く攻め合うか、比較的穏やかに受けて応じるか、重大な分岐点があった。藤井は前者に自信が持てなかったが、豊島は比較的早い決断で後者を選んだ。

■1時間27分の長考に

 本局のハイライトは2日目午後、藤井が相手陣に角を打ち込んだあたりかもしれない。解説のプロは一様に驚いた。上級者であれば一目「重い」と感じられるからだ。将棋において「重い」という言葉は、マイナスのニュアンスで使われる。しかし藤井の判断は正しく、重い角打ちは好手だった。

 豊島は1時間27分の長考に沈み、桂を打って辛抱した。

「本譜じゃダメだと思ったんですけど、他の手も苦しそうな気がしたので」(豊島)

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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