パラマウントベッドと共同開発した排泄ケアシステム「Helppad」。ベッドに敷くだけで排泄を検知し、介護者に通知する(撮影/写真部・東川哲也)
パラマウントベッドと共同開発した排泄ケアシステム「Helppad」。ベッドに敷くだけで排泄を検知し、介護者に通知する(撮影/写真部・東川哲也)

ハンダづけもできない

 高校で介護ロボットの存在を知り、未来ロボティクス学科(未ロボ)がある千葉工大のオープンキャンパスに足を運んだ。そこで看板教授の富山健に会い、「テクノロジーで介護者の役に立ちたい」という思いを熱く語った。宇井の純粋さに打たれた富山は言った。

「うちのAO入試を受けてみなさい」

 宇井が未ロボを受験した07年は、ソニーの犬型ロボット「AIBO」や、ホンダの二足歩行ロボット「ASIMO」によるロボットブームが一段落したころ。それでも学生のロボット熱は高く、6人を募集した面接には、100人近くが参加した。

 宇井は数学や物理が得意だったわけではなく、ロボットエンジニアの素養はなかった。選考会では、ほとんどの教授が合格に否定的だった。ただ一人、強烈に推したのが富山である。

「私が責任を持ちます。あの子こそ、採るべき学生です」

 宇井より優秀な受験者は山ほどいた。しかし、宇井の目的意識は、ずば抜けて具体的だった。富山はそういう人材にこそ、テクノロジーの翼を授けるべきだと、考えたのだ。

 未ロボに入学したものの、基本のハンダづけすら満足にできなかった。回路の部品にハンダを垂らすと、周囲に流れて、他の部品までくっついてしまう。

「ちょっと手伝って」

 男子学生に頼むと、二つ返事で手を貸してくれた。だが、「お前、これ自分でやってないだろ」。教授にはすぐバレた。

 富山の指導のもと、宇井は学生プロジェクト「aba」を立ち上げた。awakened bunch activity(未来を創造する者たちの集まり)の略。富山の命名だ。目的は宇井の志望動機「テクノロジーで介護の問題を解決する」。といっても、ハンダづけもできない宇井に、いきなり介護ロボットは作れない。宇井はまず、介護施設に実習に行くことにした。(敬称略)(ジャーナリスト・大西康之)

AERA 2021年11月15日号より抜粋