凶行に遭った乗客らはお互いが協力して逃げた。その様子はツイッター上で拡散され、事件の恐怖が伝えられた[写真:ツイッター(@siz33)の動画から]
凶行に遭った乗客らはお互いが協力して逃げた。その様子はツイッター上で拡散され、事件の恐怖が伝えられた[写真:ツイッター(@siz33)の動画から]

 日本中を震撼させた京王線の刺傷事件。無差別かつ電車という「密室」では、個人の努力では防ぎきれない。鉄道会社による積極的な対策が期待される。AERA 2021年11月15日号から。

【写真】電車の窓から逃げる乗客たち

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 すでに刃物を手に握りしめているようなケースは別として、これから事件を起こすかもしれない不審者を見極めるにはどうすればいいのか。

「基本的にはその時、その場所で隙を窺っていたり、荷物をゴソゴソするなどの不審な態度があるかどうかで予測することもできます。ただ、無差別殺人を企てる犯人の中には、最終的に自分が捕まってもいい、場合によっては死んでもいいとさえ考えるケースが増えてきた。そうなると見極めは難しいと思います」

 こう語るのは、犯罪心理学を専門とする東洋大学の桐生正幸教授だ。

 いくら見極めが難しいからといって、怪しく見えない人にまで注意を払い続けることなどできない。個人の努力には限界があるのだから、鉄道会社は犯罪抑止策を積極的に講じるべきだと主張する。

「今回の容疑者は、一定区間で密室状態が続く特急電車をあえて選択している。そのほうがより多くの人に危害を加えることができるから。そこで、ある程度混み合っている、もしくは長時間にわたって乗客が車内に留まるような場合には、環境要因を変化させ犯行意欲を削ぐような対策を取るべきだと考えます」

■スマホ向けに注意喚起

 桐生教授のアイデアはこうだ。

 犯罪者は行動に移そうと思った時には、すでにそのことしか頭になく、自らそれを抑止することはほぼできない。だが、その状態に至る過程で例えばリラックスさせる音楽が流れたり、「犯罪に遭わないように気をつけましょう」といった車内アナウンスが流れたりすれば、犯行意欲が失われるきっかけとなる。

 また、個人の危機管理としては、少なくとも何度か車内を見渡すべきだが、スマホを見続けることが習慣化し、自分で対策をとることが難しい乗客も多いだろう。

「鉄道会社がスマホに向けてダイレクトに注意喚起のイラストやメッセージを表示させるのはどうか。対症療法ですが、試してみる価値はあると思います」(桐生教授)

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