松永拓也さんは9月17日、亡くなった妻の真菜さんと長女の莉子ちゃんの遺影を前に会見に臨んだ。過熱した加害者バッシングに悩んでいたことも明かした(c)朝日新聞社
松永拓也さんは9月17日、亡くなった妻の真菜さんと長女の莉子ちゃんの遺影を前に会見に臨んだ。過熱した加害者バッシングに悩んでいたことも明かした(c)朝日新聞社

 東京・池袋で起こった乗用車暴走事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚幸三受刑者(90)に下されたのは、禁錮7年の求刑に対して禁錮5年の実刑判決だった。ネット上での非難が社会的制裁として考慮され、量刑軽減の理由の一つとなったのだ。この事故で妻と長女を亡くした松永拓也さんに、オンラインインタビューで思いを聞いた。AERA 2021年11月8日号から。

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 飯塚幸三受刑者への社会的制裁が減刑理由になったことは非常に残念でした。遺族は、減刑されることを望まないからです。僕の全然知らないところで飯塚受刑者への誹謗中傷による社会的制裁が続くことに、僕自身が戸惑っていました。

 誹謗中傷に至る理由は、その人が自分のなかに持っている「正義」だと思います。あと一つ、「優しさ」もあると感じます。会見などで僕が悲しんでいる姿をテレビなどで見て、こういう思いをさせた受刑者に僕に代わって言ってあげようという思いです。実際、「松永さんは人がいいから言いたいことも言わないと思うので、私が代わって言っておいてあげました」という内容のネットへの書き込みがありました。

 寄り添ってくださるのは本当にありがたいと思います。ただ、受刑者へのネットでの誹謗中傷や自宅への街宣活動を動画で見ると、むしろ悲しくなります。なぜなら、僕自身、そういうことを望んでいないからです。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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