俳優、モデル、映画監督、カメラマン、歌手……。多才に活躍する池田エライザ。11月8日には、ELAIZAの名でファーストアルバム「失楽園」をリリースする。AERA 2021年11月8日号から。

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──「失楽園」。退廃的な匂いを感じさせるタイトルだ。

 現代においても自分の感覚においても、ユートピアよりもディストピアのほうがなじむと思いました。その時に、英国の詩人ミルトンの『失楽園』(旧約聖書『創世記』のアダムとエバがエデンの園を追放される話をもとにした叙事詩)を思い出したんです。英語にすると『Paradise Lost』。作りたいと思っていた音楽を要約してくれていると思いました。とはいえ、全体の構成としては憂鬱からほのかな希望に移り変わっていく。暗がりからなんとなく一筋の光が見えるところまでいけたらいいなという作りになっています。

 今を生きている若い子たちに、ユートピアとか楽園といっても疑心暗鬼です。何かうさんくさく感じると思うんですよ。今、楽園という曲を作ってもそちらのほうがイコール失楽園という感じがしませんか? 失楽園はすごくピュアな意味で、救いようがあるという意味も同時にあるのかなと思います。

■女性だからを楽しむ

──アルバムはささやき声で歌ったり、地声を効果的に使い分けたり。多彩な表現で聴かせる。

 ボイストレーニングは全然していません。子どもの頃から歌が大好きなんです。私の歌は(歌手である)母の教育が大きい。当時、日本語がまだそんなに達者でない母とのコミュニケーションは放課後、ピアノの前で発声練習をすることでした。技術的なことはいまだにできないことがいっぱいあります。ただ、私はいつも歌を歌っています。移動の車に乗った瞬間からカラオケ(笑)。家でもずっと歌っているので、(飼っている)鳥が歌を覚えてしまうくらいです。

──歌番組ではさまざまな曲をカバーし話題になってきた。今回はロイ・オービソンが1964年に出した「Oh,Pretty Woman」をカバー。彼女ならではの視点が生きる。

 男性が女性に声をかける曲は基本的に好きではありません。「かわい子ちゃん、こっちを向いて」だなんて「失礼しちゃう!」って思います。でも、時代が変わってそこに気づけたからこそ、今までそういうことが多かったからこそできることがあると思いました。女子だけのバンドで編成して、女の中に眠る男よりもハンサムな男性性について歌おうと思ったわけです。精神的な意味で女性が男性に負けていないというか、女なのにこれができるではなくて、女だからこんなにできた、ということを楽しむ。それは今やるべきことのような気がしました。

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