こうしてしかつめらしく用法を分析してはみましたが、本場アメリカで「Trick or Treat? のorはotherwiseの用法」などと周知されているかというと、そんなことはまったくありません。我が家の子どもたちもそうですが、幼い子たちは「Trick or Treat? 」が何を指すのかもわからず、よく回らない舌で「キカキー!」と家々のドアを叩きます。おそらくお菓子がもらえる不思議な呪文ぐらいにしか思っていないのではないでしょうか。

 子どもだけでなく、大人もそうです。アメリカには「トリック・オア・トリート」ならぬ「トランク・オア・トリート(Trunk or Treat)」といって、家々を回ってドアを叩く代わりに広場や教会に集った車を回ってキャンディをもらう、効率と安全と防寒重視の催しがあります。トランクは車のトランクなわけですが、「トランクか、さもなくばお菓子か」って、まったくもって意味がわかりません。単に近い発音をしているだけなので、「Trick or Treat? 」というフレーズがいかに形骸化しているかがわかります。ま、固いことは言わずに楽しめばいい。ハロウィンとはそういう愉快なお祭りなのです。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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