「森のようちえん」では、自然の中で子どもたちのたくましく生き生きとした表情が見られる(写真:浅井さん提供)
「森のようちえん」では、自然の中で子どもたちのたくましく生き生きとした表情が見られる(写真:浅井さん提供)

 自然の中で人や個性を大事にした子育てをしようというムーブメントがある。その一つである「森のようちえん」。『ルポ 森のようちえん』を上梓した教育ジャーナリストのおおたとしまささん、森のわらべ多治見園園長・浅井智子さん、智頭の森こそだち舎理事長・西村早栄子さんが語り合った、AERA 2021年11月1日号の記事を紹介する。

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■子ども中心にシフト

おおた:僕が興味を持った「森のようちえん」は、幼児教育のムーブメントのようなもので、自然を生かした保育の総称として使われている言葉です。園舎を持たずに毎日森の中で過ごすような園もあれば、園舎をもっていても頻繁に森の中へと出かけていくという方法をとっている園もあります。運営母体も認可を受けているところ、子育てサークル的に活動しているところといろいろですが、自然のなかで人を大事に育てようというのは共通しています。

 産業革命以降、労働者として一定以上の質や能力を持っている人間を効率よく大量に育てる方法として学校ができたという捉え方がありますが、一方で、子どもの個性を見ておらず、多様化に適応できていないという問題意識がありました。この議論は100年以上前からあり、もっと子ども中心、人間中心の教育にシフトしようと言われてきました。モンテッソーリ教育やシュタイナー教育など、従来型の学校教育とは一線を画するこうした教育を“オルタナティブ教育”と言い、いま注目が集まっています。森のようちえんもそんな流れの中にあります。

浅井:私の立ち上げた「自然育児 森のわらべ多治見園」と、西村さんのやられている「智頭町森のようちえん まるたんぼう」はどちらも2009年にできました。岐阜県の場合はありがたいことに、毎日森で過ごす森のようちえんを認可外保育施設として認めていただける県独自の手引きができたので、うちの園は無償化の対象園として運営しています。しかし、全国的には無償化の対象になっている森のようちえんはまだ少ないです。もともと私は公立保育園の保育士でした。我が子の子育てを通して森のようちえんに出合ったのですが、公立の保育士上がりの私には、この自由な教育は衝撃でした。

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