世界で最も有名な環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん。彼女の活動を追った映画「グレタ ひとりぼっちの挑戦」には、その知られざる素顔が映っている。AERA2021年11月1日号の記事を紹介する。

【写真】ネイサン・グロスマン監督

たったひとりのストライキからノーベル平和賞候補になった活動家の軌跡を追う。東京・新宿ピカデリーほか全国公開中 (c)2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.
たったひとりのストライキからノーベル平和賞候補になった活動家の軌跡を追う。東京・新宿ピカデリーほか全国公開中 (c)2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.

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 2018年夏。ネイサン・グロスマン監督(30)と、グレタさんの出会いは偶然だった。

「友人がグレタの家族と知り合いで、『明日、ちょっとしたストライキをするらしい』と聞いて現場に行ってみたんだ。僕自身、気候変動問題に特別な関心があったわけではなかった。でも、彼女がプラカードを持って一人で座り込んでいるのを見て、すぐに興味を惹(ひ)かれた」

 路上に座る彼女は当時15歳。多くの人が通り過ぎていく。「一緒に座ってもいい?」。しばらくして隣に座る一人が現れた瞬間、一観客として思わず涙が出るほどグッときてしまった。

「グレタは最初とてもシャイだったけれど、どんどん人と話すようになり、友達も増えていった。もちろん彼女の目的は有名になるとか仲間を作りたいとかじゃない。彼女は問題に対し、何か行動を取っているという実感を持ちたかったのだと思う。僕もそれを見守ろうと決めた」

■ヨット旅にも密着

 最初の半年は地味な活動だった。だが徐々にうねりは広がり、彼女はCOP24(第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議)に招かれ、若者たちのデモに参加。監督はニューヨークの国連サミットに向かう大西洋横断ヨット旅にも密着する。

「まさかこんなことになるとは!と頬(ほお)をつねっていたよ。彼女は正確な知識やデータとともに、将来を憂える心からの気持ちを、正直に簡潔な言葉で訴えることができた。だからこそ人々の心を動かしたんだ」

 カメラは彼女の家族や自宅での様子も映し出す。アスペルガー症候群の症状があり、本来は人と話すことが苦手なこと。興味を持ったことには集中でき、正確に記憶できること──。

「グレタはただ怒り、叫んでいる人ではなく、温かく素敵な面をたくさん持っている。この映画を通じて『人間は一元的ではなく多様な面を持っている』ことも知ってもらいたかった」

 世界のアイコンとなる一方、彼女は凄(すさ)まじい中傷や批判にさらされる。SNSで殺人予告を受けても彼女はひるまない。

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